事例で学ぶ 処方チェック コミュニケーション
CASE.16
チラーヂンS錠服用患者に鉄剤が処方された?
- 血液及び造血器の疾患並びに免疫機構の障害
- 関連キーワード:
-
- 相互作用
- 併用注意
難易度:★☆☆
- 疾患名:鉄欠乏性貧血
-
- 医薬品販売名:
(1)チラーヂンS 12.5µg/25µg/50µg/75µg/100µg/散0.01%
(2)フェロ・グラデュメット錠105mg - 医薬品一般名:
(1)レボチロキシンナトリウム水和物
(2)乾燥硫酸鉄
- 医薬品販売名:
問題
下記の事例において、何をチェックし、具体的には何が問題であり、
疑義照会する際はどのように伝えればよいでしょうか?
<処方 1> A病院 内科 処方オーダリング
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- チラージンS錠50µg
- 1錠 1日1回 朝食後 14日分
<処方 2> A病院 内科 処方オーダリング
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- フェロ・グラデュメット錠105mg
- 1錠 1日1回 朝食直後 14日分
チェックすべきことは? 何が問題?
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解答
チェックポイント
チラーヂンS錠<レボチロキシンナトリウム水和物>とフェロ・グラデュメット錠<乾燥硫酸鉄>との相互作用をチェックする。
問題点
甲状腺ホルモン製剤と鉄剤との同時服用により、甲状腺ホルモンの吸収が低下し効果が減弱する可能性がある。しかし今回の処方では、フェロ・グラデュメット錠がチラーヂンS錠と同じ朝食後服用で処方されていたため、疑義照会をする必要がある。
疑義照会
チラーヂンS錠とフェロ・グラデュメット錠の同時服用により、チラーヂンS錠の消化管からの吸収が低下して効果が減弱する可能性があります。そのため両剤の同時服用は避け、服用時間をずらしていただいた方がよいと考えます。例えば、チラーヂンS錠は朝食後服用のままで、フェロ・グラデュメット錠は夕食直後に服用すると、両剤の投与間隔があいていますので相互作用が起こりにくいと考えられます」と疑義照会を行い、以下の処方に変更となった。
<処方 3> A 病院 内科
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- フェロ・グラデュメット錠105mg
- 1錠 1日1回 夕食直後 14日分
まとめ
・甲状腺ホルモン製剤と鉄剤の同時服用は、甲状腺ホルモン製剤の効果を減弱させるので、両剤の投与間隔をできるだけあけるようにする。その際、患者の服薬アドヒアランスを低下させないよう注意する。
解答に必要な医薬品情報
・原発性甲状腺機能低下の治療に使われる甲状腺ホルモン製剤(チロキシン)と硫酸第一鉄を同時に服用した場合、甲状腺ホルモン製剤の効果が減弱するか否かを明らかにするために臨床試験が実施された[文献1]。被験者は一定量のチロキシンを服用している原発性甲状腺機能低下症患者14人である。試験では、硫酸第一鉄300mg錠と各々の患者が通常服用している用量のチロキシンを12週間毎日患者に服用させた。その結果、血漿甲状腺刺激ホルモン(TSH)は、1.6mU/Lから12週後には5.4mU/Lに上昇した。しかし、遊離チロキシン指数には有意な変化はなかった。臨床採点法(クリニカルスコア)による主観的評価において9人の患者で甲状腺機能低下症の症状と徴候の増強が観測された。以上より、硫酸第一鉄とチロキシンの同時服用は、個人差があるものの、チロキシンの効果を減弱すると結論づけられた。このため、患者によっては両剤の併用により臨床的に重要な問題が生じると考えられる。
・続いて、甲状腺ホルモン製剤と鉄剤の相互作用をinvitroで検討した。硫酸第一鉄とチロキシンを試験管内で混合したところ、鉄とチロキシンの結合を示唆する暗紫色の難溶性複合体が出現した。これを可溶化すると青色水溶液となった。塩化第二鉄でも同様の反応が示された。硫酸第一鉄が酸化されない状態ではチロキシンと混合したところ反応は起こらず青色を呈しなかった。青色は、おそらく生体内で第二鉄-チロキシン複合体が形成されたことによる(第一鉄イオンそのものには反応性はなく、第一鉄イオンが酸化され第二鉄イオンとなりチロキシンと結合する)。この相互作用には、鉄と結合しやすいチロキシンのフェノール基、カルボキシル基、アミノ基が関与していると考えられる。さらに硫酸第二鉄の形成は、硫酸第一鉄に特異的なものではなく、おそらくその他の鉄剤でも起こり、チロキシンの効果が減弱すると考えられる。
・この相互作用の原因は、生体内における鉄剤と甲状腺ホルモン製剤との吸着あるいはキレート複合体形成による吸収低下であると考えられる。この相互作用を回避するためには両剤の投与間隔を考慮する必要がある。
もっと知る!
・鉄剤ではないが、同様に甲状腺ホルモン製剤と相互作用することが知られているスクラルファートを投与した後8時間後にチロキシンを投与した場合、相互作用をかなり回避できることがわかっている[文献2]。また、スクラルファートを服用した後2.5時間遅らせてレボチロキシンを服用しても相互作用を避けることができなかった。しかし、甲状腺ホルモン製剤投与の4.5時間後にスクラルファートを投与した場合は効果が得られた[文献3]。よって、スクラルファート等アルミニウム含有製剤を併用する場合には同時投与は避け、両剤の投与間隔をできるだけあけることが必要である。
[引用文献]
1.Campbell NR et al.,Ann Intern Med,117:1010-1013,1992.
2.Sherman SI et al.,Am J Med 96:531-535,1994.
3. Havrankova J,Lahaie R.,An Intern Med,117(5):445-446,1992.
- 重複投与
疾患名:鼻かぜ
医薬品一般名:d-クロルフェニラミンマレイン酸塩、ジヒドロコデインリン酸塩/dl-メチルエフェドリン塩酸塩、クロルフェニラミンマレイン酸塩