いよいよ夏本番が到来し、プールや海に家族で行かれる方も多いでしょう。人混みの中で過ごすと、当然感染症のリスクも上がります。特に厄介なのが「子供の3大夏風邪」です。子供から大人にうつることもあるので、大人だからといって油断は禁物です。7月15日の海の日を迎えるに当たり、今回はこの夏の風邪について勉強してみましょう。

3大夏風邪とは?

具体的には、(1)手足口病、(2)プール熱(咽頭結膜熱)、(3)ヘルパンギーナの3つで、例年6月から8月にかけて流行のピークを迎えます。

(1)手足口病は主に7月にピークを迎えるウイルス性感染症です。原因ウイルスは、「コクサッキーウイルス」と「エンテロウイルス」です。何度もかかる可能性があり、5歳未満の小児の患者さんが大部分ですが、まれに大人もかかります。潜伏期は3~6日程度で、症状としては、名前の通り、手のひら・足の裏・口の中などに水泡性の発疹ができ、数日間発熱が続きます。1週間ほどで症状は治まりますが、口の中にできた水泡がつぶれた後に口内炎ができることがあり、それにより飲食が困難になることがあります。また、頻度としては低いですが、重症化して脳炎になることがあるので侮れません。

(2)プール熱は6月末頃から夏の間中、流行することが多いですが、実は1年中発生する可能性があります。原因ウイルスは「アデノウイルス」で、病名からわかる通り、プールを介して感染拡大することが特に多いです。潜伏期間は2日から2週間と、場合によっては長くなるのが特徴です。症状としては、39度くらいの発熱が長い時には1週間ほど続き、咽頭炎、結膜炎を伴うため、別名「咽頭結膜熱」とも呼ばれます。頭痛や食欲不振を併発することもあります。

(3)ヘルパンギーナは3つの中ではあまり聞きなれないですが、6月から初夏にかけて流行します。原因ウイルスは「コクサッキーウイルスA群」で、何度もかかることもあり、大人にもうつることがあります。潜伏期は3~6日です。症状としては、39度以上の高熱が数日続き、喉が腫れるのと同時に小型の水泡がたくさんできます。水泡は数日後につぶれて黄色い潰瘍に変わり、喉の痛みがさらに強くなります。これにより、飲食が困難になり、脱水症状を起こすことも多いです。また、3つに共通して言えることですが、どれも高熱を伴った際に、熱性けいれんを起こすこともあるので注意が必要です。

薬剤師がやるべきことは?

残念ながら、多くのウイルス感染症と同様、3つに関しては現時点で有効な治療薬はありません。各々の症状に応じた対症療法を取ることになります。要するに一般的な風邪と同じ対処法をとります。具体的には、熱が高すぎてつらそうなら鎮痛剤を、結膜炎で目やにがひどいなら抗生剤やステロイドの点眼剤を、という感じです。

親御さんに服薬指導を行う際には、お子さんの具体的な症状を確認してみるのもいいでしょう。各々の対症療法の説明はもちろん、刺激のある食事は避け、噛まずに飲み込める消化のいいものを食べるよう勧めるなど、日常生活におけるアドバイスをすることができるのではないでしょうか。

さらに最も重要なことは2次感染させないように指導することです。感染経路としては、咳やくしゃみなどによる「飛沫感染」と共用のタオルなどを介した「接触感染」がメインとなるので、これらの対策をするように説明しましょう。手洗いうがいはもちろん、マスクを着用し、家族間でのタオルの共有も避けるように説明します。

そして、「身近な街の科学者」である薬剤師であればもう一歩踏み込んで、ウイルスの特徴を理解することも大事です。

ウイルスの特徴を理解しよう!

ウイルスは構造の特徴から見て、エンベロープウイルスとノンエンベロープウイルスの2つに分けることができます。エンベロープとは脂質の膜のことで、タンパク質の殻がさらに脂質膜でおおわれているものをエンベロープウイルス、タンパク質の殻だけでできているものをノンエンベロープウイルスに分類します。3大夏風邪の原因となっているウイルスはどれも後者のノンエンベロープウイルスに該当します。

薬局でも購入できる消毒用エタノールは比較的幅広い抗菌スペクトルを持ちます。作用機序としては主に脂質膜を壊すものになるので、通常脂質膜を持つ細菌や真菌、エンベロープウイルスには効果がある一方、ノンエンベロープウイルスには効果がほとんど期待できません。

あのノロウイルスもノンエンベロープウイルスに分類されますので当然消毒用エタノールは無効です。しかし、リン酸などの酸を加えてpHを酸性に下げることで、ノンエンベロープウイルスにも効果を持たせた商品も開発されています。ただ、酸の独特の匂いがあること、酸に対して弱い性質をもつ素材には使いにくいなどのデメリットもあります。

薬局では通年を通して通常の消毒用エタノールとリン酸を加えた消毒用エタノールを常備し、使用目的によって患者さんに使い分けるように説明すると良いと思います。酸性にした商品としては、例えば、SARAYAから販売されている「ハンドラボ 手指消毒スプレーVH®(リン酸を加えたもの)」や「スマートハイジーン ノロアウト ウイルス・細菌除菌スプレー®(クエン酸を加えたもので、クエン酸は食品添加物なので調理器具や食器に向いている)」などがあります。ジェルタイプやウェットシートタイプもあるので患者さんの生活スタイルなどに合わせて選びましょう。ぜひ、「夏の風邪の門番」として、感染拡大に一役買える薬剤師を目指してください。

リクナビ薬剤師では働く薬剤師さんを応援しています。
転職についてお悩みの方はこちらのフォームよりご相談ください。