梅毒はご存知の通り、有名な性感染症の1つです。以前は死に至る病として恐れられていましたが、抗菌剤のペニシリンの登場により治療することが可能となり、患者数は減っていきました。しかしながら近年、性行為の多様化・低年齢化と、それに伴うリスクに無知なまま行われる性行為の広がりにより、患者数が再び急激に増加してきています。また、以前は男性患者の報告が多かった疾患ですが、最近では女性の患者数も多くなってきており、男女ともに患者数が増えてきています。梅毒は決して過去の病気でなく、いまだ重要な感染症の1つと言えます。今回は梅毒にスポットを当てて治療法を学んでみましょう。

梅毒の具体的な症状とは?

尿道から膿が出て感染に気づく、というのが性病発見の典型的なパターンですが、梅毒の場合にはそれは当てはまりません。さらに言うと感染初期は自覚症状がないことも多く、感染に気づかないまま、周囲に拡大してしまう危険性を秘めています。症状がなくても感染の可能性がある場合には、速やかに検査を受けることを勧める必要があります。

感染後しばらく経つと、亀頭や陰茎にしこりやできものができる、体や手のひらに赤いぶつぶつ・口の中に口内炎のようなものができるなどの具体的な症状が出てきます。感染の可能性のある行為をした後にこういった症状が出てきたら、ほかの感染症罹患の可能性も考慮に入れて、受診を勧めましょう。医療が進んでいる現在において、そこまで重篤になることはまれですが、梅毒を放置して悪化した場合には、脳や神経にも影響を及ぼし、認知症症状や神経障害などを引き起こすこともあります。

加えて、性行為自体がなくても、オーラルセックスやキスなど他の行為によっても梅毒に感染します。しかし、これらの行為からでは感染しない、もしくは歯を磨いたり、シャワーやうがい薬などで軽く洗い流したり、消毒したりすれば大丈夫と誤解している人たちが意外と多くいます。こういった誤解が感染を拡大させている一因です。薬剤師としてもこういったことを把握した上で相談にのるのが良いでしょう。

梅毒の検査方法として何があるか?

梅毒の原因菌は、トレポネーマ・パリダムです。一番確実で優れている検査方法としては、病変部からこの細菌を直接検出することです。しかしながら、この方法は臨床で日常的に運用するには困難となります。実際の臨床現場で使われている検査方法としては、病変の有無とともに、梅毒血清反応を用いる方法です。

これには2種類あって、①細菌自体を抗原とする抗体検査法、②細菌によって放出されるカルジオリピンを抗原とする抗体検査法になります。ただし、②カルジオリピンを抗原とする抗体検査法に関しては、梅毒以外でも陽性を示すことがあるので注意が必要です。通常は①と②を合わせて判断します。

その解釈としては、下記5パターンがあります。
(ⅰ)①が陽性で②も陽性の場合には、梅毒もしくは梅毒治療後の抗体保有者
(ⅱ)①が陽性で②が陰性の場合には、治癒もしくは梅毒感染初期
(ⅲ)①が陰性で②が陽性の場合には、梅毒感染初期もしくは偽陽性(梅毒ではないのに梅毒と判別されてしまう)
(ⅳ)①が陰性で②も陰性の場合には、非梅毒

大事な点は、一度梅毒にかかった方は陰性の数値まで下がることはないということです。症状を経過観察の上、治療後に一定の数値まで下げることができたら梅毒治療は十分にできたと判断でき、日常生活にも支障がありません。

治療に使う抗菌剤は?

今でも元祖であるペニシリン系抗菌剤を使用しています。海外では注射療法が主流ですが、日本では経口抗菌剤が主流です。よく用いられるのはアモキシシリンやアンピシリンです。ペニシリンアレルギーの方が日本人には割と多く、そういった場合にはマクロライド系抗菌剤(クラリスロマイシンなど)やテトラサイクリン系抗菌剤(ミノサイクリンなど)が使用されます。

しかし近年、このマクロライド系抗生剤の中のアジスロマイシンに耐性を持つ梅毒の報告も出てきています。薬剤師としてもこのことを把握して、これ以上耐性が増えていかないように乱用防止と適切な投与方法の把握に努める必要があります。さらに、梅毒の治療は何週間にもわたって継続しなければいけないのに、1回で終わりだと誤解している人や、症状が治まってきたと勝手な自己判断で服用を中止したりする人も少なくないので、きちんと薬剤師としても説明したいところです。

また、比較的抗菌スペクトルが広いとされているキノロン系抗菌剤は、梅毒に効かないこともいま一度確認しておきましょう。性感染症についてはなかなか勉強する機会がないですが、感染者の増加しているいま、薬剤師としてはきちんと把握し、ぜひ感染症拡大防止のプロになってください。

リクナビ薬剤師では働く薬剤師さんを応援しています。
転職についてお悩みの方はこちらのフォームよりご相談ください。