一部の学校で学級閉鎖が行われるなど、例年より早く流行の兆しを見せているインフルエンザ。異常気象や夏場の猛暑により体力が落ち、免疫能が低下している人が多い中で、一気に感染を拡大させています。しかし治療は日々進歩しており、今年になって発売された薬もあります。今回は、流行シーズン到来にさきがけて、抗インフルエンザ薬について確認しておきましょう。

インフルエンザウイルスの種類と増殖の仕組み

インフルエンザウイルスにはA・B・C型の3つがあり、このうち我々にとって毎年の脅威となるのは、A・B型です。A・B型に季節性という特徴がある一方で、C型は通年にわたって罹患します。C型は主に5歳以下の小児に感染して、鼻風邪のような症状を呈します。一度罹患すると免疫がほぼ一生持続するので、再度かかることは少ないです。また、成人になってから初めて罹患する方もいますが、症状としては小児の時期とあまり変わりません。

インフルエンザウイルスは鼻などの粘膜を通して、細胞内へと侵入します。侵入した後、ウイルス自身の膜を破り細胞内へ自身のRNA(インフルエンザはレトロウイルスに分類され、ゲノムにDNAではなくRNAを持っています)を放出します((1)脱殻)。放出されたRNAはそのまま細胞核内に取り込まれ、ウイルス遺伝子が作られます((2)複製)。そして、複製された遺伝子からできた新しいウイルスが細胞外へと広がっていきます((3)遊離)。この3つの過程を経てインフルエンザウイルスは広がっていきます。

現在、臨床で使用されている薬はこの3つの過程を阻害することを目標としています。インフルエンザワクチンも存在するため、シーズンが始まる前に予防的に対処することも可能になっていますが、接種の時期や、免疫能がまだ発達していない小児などでは、ワクチンの効果が出ない場合もあり、やはり抗ウイルス薬についての準備は必要と思われます。

各抗インフルエンザ薬の特徴とは??

最近あまり見なくなりましたが、シンメトレル®は前述した(1)脱穀の過程を抑制することで効果を発揮するものとして開発されました。(1) 脱穀の際に働くM2蛋白機能を阻害する作用を持っているのですが、このM2蛋白はA型のウイルスしか保持しておらず、A型にしか効果を発揮しません。B型はBM2蛋白という別の因子を持っており、B型の罹患者が増えている近年では、シンメトレル®ほとんど使われなくなりました。

近年多く使われているのは、(3)遊離の過程で働くノイラミニダーゼという酵素を阻害することでウイルス拡散を抑制する、ノイラミニダーゼ阻害薬です。その中でよく使われているのが、経口のタミフル®と吸入のイナビル®です。以前は吸入薬といえば、リレンザ®が主流でしたが、1日2回5日間吸入しないといけない面倒さから、イナビルに置き換わりました。また、点滴のラピアクタ®もありますが、これは薬局では見ることはまずないでしょう。

最近登場した新薬の実力とは??

前述したノイラミニダーゼ阻害薬はウイルスの拡散を抑える薬で、ウイルス増殖自体を抑制するものではありません。かつ、タミフルは治療目的では、1日2回5日間服用する必要があり、インフルエンザで苦しんでいる時に継続服用すること自体が大変なのと、因果関係は不明ではあるものの、10代の患者さんに異常行動が見られた問題もあり、注意が必要な薬です。また、近年、処方させることが多いイナビルは1回吸入で済むので、服薬指導時に薬剤師の指導の下で治療を終えることができる反面、うまく吸引できたか患者さん自身がわかりにくいというデメリットがあります。また、咳が酷かったり、喘息の既往歴などがあったりすると吸入時にむせてしまうという方もいらっしゃるので注意が必要です。

近年登場した新薬であるゾフルーザ®が今後、抗インフルエンザ薬のシェアを変えると考えられています。この薬はこれまでの薬とは違い、(2)複製の過程の最初のステップで働くCapエンドヌクレアーゼと呼ばれる酵素を阻害することで、ウイルスの増殖そのものを抑制します。さらに、経口で1回だけの服用で済むので、患者さんの負担も少ないです。(3)遊離より速い段階で作用するので、ウイルス減少効果が従来に比べて速いという利点もあります。
欠点としては、タミフルに比べて高価であることがあげられるでしょう。タミフルはさらに薬価の安い後発品も登場しているので、どうしても安い薬がいいという患者さんは、もしかしたらタミフルを希望するかもしれません。

ゾフルーザの登場で近年盛り上がりを見せているインフルエンザ治療薬です。例えばゾフルーザ®よりさらに早い、(1)脱穀の過程を阻害できる薬が開発されて、より早期に抗ウイルス効果を発揮できるようになるかもしれません。今後の動向にぜひ注目してみてください。