コラムで以前、毒から作られた薬について紹介しましたが、今回はその第2弾となります。毒と薬は紙一重という特徴は薬剤師にとっては特に大事となりますので、今回のコラムでさらにしっかりと意識してみてください。また、近年何かと話題になっているワクチンの理解にもつながる概念となります。

まずは抗生物質について考えてみよう!

近年のコロナ禍において、人類にとって感染症がいかに大変なことであるかを痛感している方も多いかと思います。現在でこそ、寿命が延びたことによってがんや認知症などが病気の中で重要視されていますが、実は古来より、人類は感染症が一番の死活問題でした。現に、日本でも長きに渡って結核が最たる重要疾患でした。公衆衛生の改善や医療の進歩、特に抗生物質の登場により、この状況が劇的に変わったのは言うまでもありません。

抗生物質は、細菌にとっては毒ですが、それを人間のために転用したものと言えます。もちろん、細菌にとっては毒となるため、人間の体に共生している腸内細菌や皮膚常在菌などにとっても毒となり、その結果、人間にも毒となってしまう場合もありますので、抗生物質の乱用には注意が必要になります。

ワクチンも実は毒の概念と関連あり?!

新型コロナ感染症によって注目を集めるようになったワクチンも実は毒の概念を利用したものになると言えるかもしれません。ワクチンとは本来、体にとっては毒となりうる病原性の細菌・ウイルスを利用し、その毒性を弱めることで上手に免疫能を働かせ、人工的に獲得免疫を形成させるものです。もちろん、すべての細菌・ウイルスが人間にとって必ずしも悪いものではないため、毒とみなしていいのかは議論がありますが、病原性の細菌・ウイルスに関しては、少なくとも体にとっては毒と考えてもいいかと思います。

ワクチンと毒も紙一重と言えるため、人によっては副作用が出ることは当然と言えば当然のことになります。大事なのは、「ワクチンが良いか悪いか」ではなく、「ワクチンが良いか悪いかはその天秤の使い方による」ということです。薬剤師であれば、この天秤を正しく使えるプロである必要があります。つまり、薬剤師において、ワクチンについての変なゴシップに流されることなく、きちんとした論文レベルでのエビデンスを常に勉強しておくことが必要であると言えるかと思います。今回のコロナ禍で薬剤師も変わらないといけない側面の1つとして、こういった点が挙げられるかなと感じます。

過去薬害で騒がれたものも再び薬に?

薬害事件と聞くと色々なものが思い浮かぶとは思いますが、代表的なものはサリドマイド薬害事件ではないでしょうか。サリドマイドは鎮静作用を持つものとして、睡眠薬や胃腸薬などとして使用されていました。服用していた妊婦の中で、奇形の新生児が生まれるという事件が世界中で多発したため、販売停止されたもので、薬が毒となってしまった事例と言えます。

ただその後、薬として有用であるという再評価がなされた後、アメリカにおいて、1998年にハンセン病患者で多発する急性症状である「らい性結節性紅斑」の薬として承認されました。また日本においても、2008年に骨髄がんである多発性骨髄腫などの薬として承認されて現在に至っています(ただし、使用の際には「サリドマイド製剤安全管理手順」を遵守して処方されることが決められていて、妊娠の可能性がある患者さんでは、処方する前に妊娠の有無をきちんと検査することとなっています)。

そして、近年の研究で、サリドマイドはさらに、ヒト免疫不全ウイルス増殖抑制、糖尿病性網膜症予防、黄斑変性症予防、各種のがんに対する抗がん作用などにも効果があるかもしれないという研究結果が出されてきています。まさに、毒と薬は本当に紙一重で、それをコントロールする天秤の調節の大事さがわかりますね。

近年になって、かつては毒とみなされたものが薬として再評価されているという事例は意外と多いです。ぜひ薬剤師であれば、こういった研究成果にも日頃から目を配ることで、多くのエビデンスを積極的に身につけて、「毒と薬の天秤のスペシャリスト」を目指して欲しいなと思います。

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