ペニシリンの発見以来、多くの抗生剤が作り出され、私たちは感染症の恐怖から逃れることができるようになりました。最も身近な病気である風邪も感染症の一つと考えられ、かつては風邪で受診すると抗生剤が処方されることが多くありました。しかし近年、抗生剤が効かなくなる耐性菌の問題が議論されるようになり、いずれはあらゆる抗生剤が効かなくなるのではないかという心配もされています。
この問題は薬剤師としても解決に取り組むことが必要でしょう。今回は、抗生剤の使用の現状についてご紹介します。

そもそも「風邪」とは??

いわゆる「風邪」とよばれるものは、正式には急性気道感染症と呼ばれ、大きく下記の4種類に分けられます。

(1)感冒
(2)急性副鼻腔炎
(3)急性咽頭炎
(4)急性気管支炎

大半を占める(1)感冒では、鼻水・鼻づまり、のどの痛み、咳・痰などの局所症状に加えて、熱や頭痛などの全身症状があらわれることもあります。感冒の原因の8割~9割はウイルスです。特に子どもではこれまでウイルスにあまりさらされてきていないことに加えて、集団生活の中で様々なウイルスに一度に暴露する確率が高まることで、何度もぶりかえすことも多いです。ただ、このウイルスたちは比較的弱いので自然と免疫で治ります。
(2)の急性副鼻腔炎は何日間鼻がつまって、においもわからないなどの症状が続くものを言います。ひどくなると粘り強い鼻水が多く出たり、顔面に痛みが出たりします。
(3)の急性咽頭炎は喉の痛みが強い症状が出ます。
(4)の急性気管支炎はせきやたんが長く続く場合にこう診断されます。

本来の抗生剤の使用方法とは??

風邪で抗生剤が必要なのは、実は1割程度しかないことがわかっています。2017年に厚労省により作成された抗生物質の使用指針「抗微生物適正使用の手引き」では、感冒で抗生剤は「使わないことを推奨する」となっています。しかし実際には、悪化の予防や免疫が弱い子どもで、抗生剤が処方される事例が続いていました。

この現状に対し、2018年の診療報酬改定で、小児の風邪に抗生剤を処方しないことで小児抗菌薬適正使用加算80点を算定できるようになりました。算定には抗生剤の使用が必要でない旨の説明をきちんと患者さんにすることや、施設基準などの細かい基準が決められているものの、この加算が設けられたことで小児科での適正処方が推進されていくと考えられています。

抗生剤の処方が適正と考えられるのは、重度の急性副鼻腔炎や溶連菌が検出された場合、急性気管支炎で症状をこじらせてしまい、咳や痰が明らかにひどい場合などがあげられます。また、元々慢性呼吸器疾患などの持病がある人や百日咳の場合にも抗生剤を使います。もし、明らかに軽度な感冒の患者さんに処方されている場合には、患者さんにヒアリングした後、必要であれば処方医に確認するのも良いと思います。

外国での抗生剤使用の現状

日本では処方されることが多い抗生剤ですが、外国では風邪くらいでは処方されないことが多いです。日本では国民皆保険制度により平等に安く医療を受けることができるため、患者さんから医師に抗生剤を出してくれとお願いすることも少なくありません。

他方、外国では状況が異なっています。例えば、アメリカで風邪をひいた場合、まずは薬局に相談することが一般的です。国民皆保険制度ではないアメリカでは、もし病院にいったとしても、審査の厳しい民間保険が適用となるので、抗生剤が処方されることはほとんどなく、最低限の薬しか処方されません。

医療費抑制としても、また耐性菌対策としても、軽症の風邪に対する抗生剤処方が減ることは有効だと考えられます。ぜひ薬剤師からも薬教育を患者さんにすることで、薬局が減薬の拠点になることを目指してください。