現在でも狭心症の薬として使われているニトログリセリン。
通称は「ニトロ」といいます。
ドラマでも、胸を押えながら急に苦しそうに倒れた人が、「ニトロお願いします」と発する場面がよく登場します。
今や舌下錠の他、胸に直接貼るもの出てきたりして進化してきています。
ニトログリセリンが薬になるまでには興味深いドラマが隠されています。
今回はこれを紹介します。
すべてはダイナマイトの完成から始まった!?
ニトログリセリンの原料となるグリセリンは、油脂を分解する事でたくさん作り出せます。
さらに、グリセリンに硝酸を加えれば、簡単にニトログリセリンは作り出せます。
ニトログリセリン自体は非常に不安定な爆薬なので、ちょっとの衝撃を与えただけで強い爆発が起きてしまうため実用的には使い物にならないものでした。
科学者のノーベルが、このニトログリセリンに珪藻土を混ぜて安定化させることに偶然成功しました。
実際に衝撃を与えても爆発はせず、専用の信管を使うときのみ爆発するという優れた爆薬になったことでバカ売れしました。
その結果、ノーベルは巨万の冨を得ましたが、一方で、彼は自分が苦労して作った発明品が大量殺戮に使われたこと、またそれによってかなりの財産を手にしてしまったことにひどくショックを受けました。
平和への願いを心に誓い、得られた冨のすべてを今後人類の役に立つ研究成果をあげた人のために使おうと思いつきます。
これがノーベル賞の始まりです。
ダイナマイト製造現場での小さな発見
ダイナマイト製造工場では、そのうち奇妙な現象が起こってきました。
工場で働いていた多くの狭心症患者の間で何故か勤務中は症状が収まるのに、家に帰るとまた発作がでるという現象が確認されていました。
ニトログリセリンに何かしらの効果があるのではないかと当時の科学者達は考え、詳細に検査をしてみたところ、ニトログリセリンの血管拡張作用が発見されました。
特定の職業が病気を引き起こすことは多々あれど、病気改善につながる例は少ないので貴重な例ではないでしょうか。
そしてニトログリセリンは進化した
ニトログリセリンは昔から、舌下錠という変わった使われ方をしてきました。
これにも逸話があります。
ニトログリセリンの効果がわかってから実際の薬になるまでには、長い年月を要しました。
ニトログリセリンの効果を認めない反対派の研究者たちが多数いたことが原因でした。
ノーベルの発見より前、最初にニトログリセリンを作り出したイタリアの科学者は、好奇心のあまりに舐めてみた結果、頭痛がしてきたので何かしらの効果があると考えました。
これ以降、科学者達の間では口にいれることで効果を発揮する、としか情報になかったのです。
口にいれると効果があるという認識は賛成派と反対派で共通していたものの、口に入れた時の扱い方に差がありました。
効果に賛成していた科学者たちは口の中で飴のように舐めていたのに対し、反対派の人たちは口に入れてすぐに飲み込んでしまっていたのです。
今でも患者さんから「飲み込んでしまったけど大丈夫か?」と相談される方も多いと思いますが、ご存知のように飲み込むと肝臓で分解されるので効果はでません。
口にいれることには変わりはないのですが、粘膜から吸収させるのと飲み込むかで効果に関してAll or Noneというレベルにまで変わってきます。
後にこのことがわかり、正しく粘膜から吸収させることにより効果を発揮する事が認められました。
その後、粘膜から吸収させればいいので口でなくてもいいのではという発想の転換と製剤技術の進歩から、皮膚から吸収させるものも登場してきました。
以前は大量の人を殺すために使われてきたニトログリセリンですが、今では世界中の多くの人を救うものになりました。
この感動的な歴史を是非知っておいてください。