薬剤師であればいつも飽きるくらいに声に出しているであろう薬の名前。成分名は同じでも商品名は企業によってまちまちです。
商品名のネーミングには実に色々な工夫や苦労が隠されています。

今回は、薬剤師でありながら、売れっ子作家やコメンテーター等として幅広く活躍されている唐沢俊一さんの著書「薬局通(早川書房)」を参考に紹介したいと思います。

薬の語尾には「ン」が多い!?

お気づきの方も多いかもしれませんが、語尾が「ン」のものが意外と多いです。
これは特に意味がある訳ではなく、薬っぽくていかにも効きそうということらしいです。

例として、有名な「アスピリン」。
有名な薬なのに、患者さんだけでなく医師や看護師の中にも、ピリン系の薬と思っている人が意外といるのもこの薬の面白いところです。

昔から鎮痛剤として使われていたスピラーエ(セイヨウナツユキ草)の成分を人工的に合成して作られた「アセチルサリチル酸」が本名です。
人工的なもののため、天然物のスピラーエのようでスピラーエでないということで、頭に英語の否定接頭語の「ア」を、語尾を薬っぽくなじむように「ン」をつけてアスピリンという名が生まれたとのことです。

関連のものとして、ノーシンは「脳を鎮める」から、サリドンは「鈍痛を去る」から来ているそうです。
このように、痛み止めは感覚に訴えることで売れ行きが上がるそうです。

どんどん出てくる奇抜なネーミングセンス

便秘の薬にも面白いものが結構あります。
「便がよく出る」からヨーデル、「サラリと出る」からサラリン、「便通をそそる」からソルベンとこの辺は単純です。

秀逸なのは、先に飲んでおけば「後が楽」だからコーラックです。CMでも「お休み前にコーラック」というのが出てきますね。
さらに、飲んで便を出せば「美」しく「スラッと」なるからビスラットゴールド。
本当にネーミングの努力には頭が下がります。

一方、薬局の棚でよく見かける風邪薬を見ても面白いことがたくさん見つかります。
風邪が「じきに治る」からジキニンは有名ですが、「すぐ」というのを「じき」と言うのは実は関東の方言で地方へいったら通用しないかもしれないとのことです。

また、風邪が「スーッと治る」からストナも有名でしょう。
特筆すべきものとしては、風邪を「KAZE」とローマ字表記にして逆から読んだエザック。
もしかしたら命名者の風邪に対抗してやるという強い意志を含んでいるかもしれませんね。

無味乾燥な化学物質の薬に優しさが加わるネーミングは大事!

女性の購買者が多い薬には面白いネーミングが多く、男性購買者が多い薬には少ないという傾向があるようです。
前述した便秘薬「コーラック」のように、女性は病名をふせたスマートな名前を気に入り、男性はてっとりばやく症状を治すことを優先するからだそうです。

例えば胃腸薬系は「~胃腸薬」といった直接的なネーミングが多いですが、サラリーマンが購買層の多くを占めるからと考えられます。
最近はストレス社会により、女性も買う方が多いそうなので、可愛らしい名前の胃腸薬もたくさん出てくるかもしれません。

センノシド含有便秘薬の商品名「サラリン」のように、何か無味乾燥な化学物質の成分に面白いネーミングが加わると優しさを感じられるような気がします。
メーカーにはこれからもネーミングをがんばって欲しいなと感じますね。
是非皆さんも探してみてください。