薬が正しく効果を発揮するためには、薬を狙ったところだけに到達させることが必要です。
これにより副作用を抑え、有効な効果だけを発揮できるようになります。
この研究分野をドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System: DDS)と呼びます。
以前の薬学研究においては、製剤学の中のほんの一端にすぎませんでしたが、近年、DDSは独立した研究分野になってきて、その重要性が増してきています。
全国の薬学部においてもDDSの独立した研究室が出来てきています。

新薬が生まれにくくなっている昨今では、既存の薬をより効果的に標的部位に届けることでより効率的に効かせようという動きも、DDSが重要視されてきている一因でもあります。
一方、洗剤はご存知のように汚れを落とすことに使われるものです。
一見結びつかないDDSと洗剤ですが、実は、この両者の結びつきが今後のDDSの鍵を握ると言われています。
今回はこれを紹介します。

そもそも洗剤が汚れを落とす仕組みは!?

絶対に相容れない関係のことを、昔から、「水と油の関係」と表現するように、水と油は混ざることはありません。
この両者をまぜることができる物質が存在します。
それが界面活性剤です。

界面活性剤は水に溶ける親水基部分と油に溶ける親油基部分が存在します。
つまり油と水両方に溶けるという二面性を持ちます。
こういった界面活性剤を介して、水と油は混ざり合うことができるのです。

洗剤にはこの界面活性剤が含まれています。
洗剤を水に加えると、まずは水自体が水にとける汚れを落とします。
それと同時に、水が界面活性剤の親水基部分と結合しますが、親油基部分は水と結合しないので、何も結合していない状態のままです。
例えば衣類の油汚れがあると、その何も結合していない親油基部分が油と結合して、衣類から油をはがして、結果として油汚れが落ちるのです。

DDSでの界面活性剤の役割は!?

一方で、DDS研究で注目されているのはリポソームと呼ばれる薬の運び屋です。
リポソームはリン脂質からなる数十~数百nm(ナノメートル)の粒径をもつ微小なカプセルです。その内部に様々な物質を入れられるだけでなく、生物の細胞の細胞膜に似せて作ってあるので、生体適合性が高く、生体内での分解性にも優れています。
サイズ的にも体内の標的部位に選択的に運ぶことに適しています。

ただ、これ自体には臓器特異性はないので、リポソームの表面を加工したりして狙った臓器だけに到達するように作り変えることが必要です。
このリポソームを構成するリン脂質は親水基と親油基の両方を持つ、まさに洗剤と同じ性質を持っているのです。
これまで、より優れた洗剤を作り出す研究が行われてきましたが、この知見をDDSにも応用することができます。
そして洗剤と同じ性質をもっているので、油に溶ける薬と水に溶ける薬を同時に同じ場所に運ぶことも可能です。

現在、世界中で活発に新規リポソーム開発研究が行われています。
例えば、温度変化によって親水基と親油基との場所が入れ替わるような温度感受性リポソーム開発研究も行われています。
この研究が進めば、油に溶ける薬と水に溶ける薬の効き目を外部から温度調節し、リポソームの状態変化を人工的に起こす事によってコントロールできるようになるのです。
他にも色々な性質をもった多機能リポソーム開発研究がなされています。
このリポソームが将来、あらゆる病気という頑固な「汚れ」をきれいさっぱりと落とす「洗剤」になってくれたらいいですね。
是非知っておいてください。