今年も薬剤師国家試験が無事に終わりました。受験をした方々はようやく終わったとほっとしている頃でしょう。筆者が薬学生だったころは、まだ4年制時代ということもあって、国家試験は大半が受かって当たり前のいわば通過儀礼のようなものでした。ところが現在では、合格率が以前よりも下がって、問題もがらっと変わってきています。その問題の動向は、今後の薬剤師に期待されている能力を表しているように見えます。今年の薬剤師国家試験の問題から、今後期待されている薬剤師像を探ってみましょう。
全体から言えることとは?
試験問題全体を見てみると、災害医療に関する問題が出題され、災害続きの我が国において、薬剤師が災害時に果たすべき実践力・解決力がこれまで以上に求められるようになっていると考えられます。また、代表的8疾患(がん、高血圧症、糖尿病、心疾患、脳血管障害、精神神経疾患、免疫・アレルギー疾患、感染症)に関する問題も前回よりも多く出題されており、より臨床知識が必要になってきています。
必須問題に注目すると、生命倫理の4原則に関する問題がはじめて出題され、医療における倫理観の重要性が増してきていると感じます。
理論問題では、物理、化学、生物、衛生の別科目間の知識横断型の問題が出題されており、各科目の知識を別の科目へと応用し判断するような実践的な知識が必要となってきていることがわかります。
一方、実践問題では、前述した災害時の対応に関する問題、学校薬剤師に関する問題、ワクチンについての相談に関する問題など幅広い活動内容を問われており、今後薬剤師が調剤以外で活動することを想定していると考えられます。
科目別の分析~物理、化学、生物~
科目別で見るとまたいろいろと見えてきます。
物理をまず見てみると、グラフやスペクトルを読み取って考えさせるような分析化学に関する問題が多く出題されています。近年、放射性物質やダイオキシンなどの汚染が問題になってきている中、薬剤師会が分析業務を担う機会が増えているので、薬剤師自身がこれまで以上に「分析のプロ」としても活躍することが求められているかもしれません。
化学に関しては、構造に関する知識を問う問題が多くで、構造をみて考えて、正しく判断する能力を要求されています。近年、添付文書の正しい読み方などに関する本も出版されるようになり、添付文書を活用した服薬指導がこれまで以上に求められるようになってきているのでしょう。薬剤師であれば添付文書にも載っている薬の構造式から、生理機能などの予測ができるようになる必要があると考えられます。
生物を見てみると、与えられた図表を正しく理解し、推測するような総合的な能力が必要な問題が多い傾向でした。逆に分子生物学などの基礎的な知識を問う問題は減っていて、実験考察問題などの、与えられた情報から臨床的状態を判断するような問題が多く見られます。基礎的知識を漫然と暗記するのではなく、それをどうやって臨床的推論に応用するかを練習できるような国家試験になってきています。
科目別の分析~衛生、薬理、薬剤~
衛生に関しては、高齢社会を意識した問題の出題に加え、環境分野の知識が多めに出題されました。環境問題や高齢社会問題に関して、薬剤師も今後はきちんと向きあうべきと考えられているのではないでしょうか。
薬理を見ると、バロキサビルなど話題性が高い薬物が多く出題されたのに加え、検査値を読み取って疾患を予測し、治療薬へとつなげる問題も出されています。新しい医薬品や話題性の高い医薬品に関しては、常に薬剤師は誰よりも強いアンテナを張っておくべきと考えられます。薬剤で、製剤学で実際の医薬品に関する出題が見られたことからもそれが伺えます。
科目別の分析~治療、法規・制度、実務~
治療では、添付文書の記載項目に関する問題が出て、難易度がやや高い印象でした。前述したように添付文書の重要性を再確認するような問題が多かったです。また、近年社会問題になっている睡眠障害の1つナルコレプシーなど、これまではあまり出題されてこなかった疾患についても問われており、近年話題になっている疾患についても薬剤師は常にチェックしておく必要があると判断できます。
法規・制度では、生命倫理やインフォームドコンセントといった倫理に関する問題が出題されています。医療における倫理の話題は最近特に注意すべきこととなっていますので、薬剤師もこれまで以上に意識する必要があります。
実務に関しては、薬剤師と臨床検査技師との情報共有についての問題や論文を活用して解くような問題が出題されました。医療の高度化や疾患の複雑化で今後さらに大事になってくる他職種連携やエビデンス医療を薬剤師も今後はしっかりと学ぶ必要があります。がんの治療薬に関する問題も多く見られて、増加するがん患者への対処をこれまで以上に薬剤師も行うことが予測されます。
今現場で活躍していらっしゃる薬剤師の方も一度、最近の国家試験に目を通してみてください。以前から比べると問われる知識も増えているので、一見難しいと感じるかもしれませんが、薬剤師に求められていることが理解できると思います。そうすると、日々の業務の中で特に意識すべきことも明白になり、日々の業務にもメリハリが出てきて、それが患者さんにも伝わり、さらに成長できるのではないでしょうか。
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