がんや糖尿病などと並び、患者数が増えているうつ病。もはや現代病の1つといっても過言ではありません。発症機構にはまだ多くの謎が残されているものの、脳内でモノアミンが減ることがうつ病と関連するという、「モノアミン説」が提唱されています。これに基づき、脳内のモノアミン量を増やすものが治療薬の主流となっています。今回はうつ病治療薬誕生の根拠が発見された経緯をご紹介します。

うつ病は遺伝と関連する?

 うつ病発症のメカニズムとしては、遺伝子との関連がずっと疑われてきました。現に、重度のうつ病患者の親子や兄弟姉妹には、普通の人たちよりも高い頻度でうつ病が発症している事実があります。多くの研究者がこの遺伝子を発見しようと力を尽くしてきました。

 遺伝子がまったく同じ一卵性双生児と、遺伝子が異なる二卵性双生児を対象として、一方にうつ病が発生したときに、もう一方がうつ病になる確率(うつ病の一致率)を調べる研究も行われています。研究者間で多少のばらつきが存在するものの、どの研究結果も一卵性双生児の一致率のほうがはるかに高く、遺伝子との関連があるのは確かなようです。

 加えて、女性のほうが男性よりもうつ病を発症しやすいこともわかっており、X染色体上にうつ病にかかわる遺伝子が存在することが予想されてもいます。

 しかしながら、うつ病に関連する決定的な遺伝子はまだ見つかっていないのが現状です。うつ病は1個の遺伝子異常によって決まっているわけではないこと、また、これまでの病気では例がない仕組みですが、正常な遺伝子が複数組合わさったときに発生するのではないかと考えられています。

モノアミン説に目を向けてみると?!

 研究の過程で、モノアミンの不足によってある種のうつ病が発生するという、モノアミン説が注目されるようになります。モノアミンとは、ノルアドレナリン、セロトニン、ドーパミンの3つの神経伝達物質の総称です。その中で、うつ病との関係が明確に分かっているのはノルアドレナリンとセロトニンです。モノアミンが心の状態を変えることが認められるきっかけになったのは、偶然の2つの出来事だったそうです。

根拠となったのは結核と高血圧患者の心理状態の変化

 1つ目の事例は結核患者でした。結核の治療にイプロニアジドという物質を飲んでいた患者の中で、うつ病にも苦しんでいた患者の気分が改善されて、幸福感を味わっていたのです。中には幸福感を恋愛感情と勘違いして、担当の看護師に告白してしまう人もいたとか。この現象を調べていくと、モノアミンの分解酵素であるMAOをイプロニアジドが阻害することで、脳内のモノアミン量が高いまま保たれることがわかり、うつ症状が改善されていました。

 また、もう1つの事例は高血圧の患者です。治療でレセルピンという物質を飲んでいた患者の15%に、深刻なうつ病が発生していたことがありした。こちらも調べると、レセルピンがモノアミンを減少させていたことが明らかになりました。

 これら主に2つの事例により、モノアミンが関係していることが確信されたのです。

 MAOを阻害することでモノアミンの分解を抑える、または直接脳内のモノアミン量を増やせば、うつ状態を改善できると考えられています。この考えに則ったSSRIやSNRIなどといった治療薬が、今実際の臨床現場で中心的に使われ、多くの患者さんのうつ症状改善に役立っています