強心剤といえばジギタリスが有名です。ハイリスク薬ではありますが、最近では血中濃度測定も可能になり、長期投与によって、より効率的に治療できるようになりました。実は、このジギタリスには面白いうんちくが隠れています。今回はこれを紹介します。

指サック?手袋?ジギタリスの名前の由来

 ジギタリスの名前は「指」を表すラテン語の「digitus(ディギトウス)」から来ています。ジギタリスはゴマノハグサ科のDigitalis purpurea.や D. lanataなどの葉の有効成分ですが、この花が指サックの形状をしています。そこで16世紀にドイツの植物学者Fuchsが名付けて、18世紀にLinneが正式な学名として採用しました。

 また、ジギタリスは別名、「foxglove(キツネの手袋)」とも呼ばれています。これには諸説ありますが、一説によると、名付け親のFuchsから「Fuchs digitalis」と呼ばれていたのが、ドイツ語でキツネをFuchsと言うため、いつしか「キツネのジギタリス」と考えられるようになり、イギリスで誤訳されて「fox digitalis」になったそうです。その他、古代の英語名「folks glove(庶民の手袋)」と混同されて、foxgloveになったのではないかとも考えられています。

世界中で呼び名がたくさん!ジギタリスの不思議

 ジギタリスは地域毎に様々な名前を持つという、珍しい特徴があります。例えば、動物を擬人化したフランスの風刺的作品「キツネのルナール」では、ジギタリスを「fox bell(キツネの釣鐘)」と呼んでいます。また、ウエールズでは「fairy glove(妖精の手袋)」です。一方アイルランドでは「deadman’s thimble(死人の指ぬき)」といいます。これはジギタリスの花の斑点が毒蛇の皮の模様に似ているためのようです。さらにイギリスの古来の薬草学書では、「witch’s glove(魔女の手袋)」、「fairy’s cap(妖精の帽子)」などと記載されています。フランスでは「聖母マリアの手袋」、ドイツでは、「指の帽子」などと言われているそうです。それくらい歴史上様々な地域で話題の植物だったのでしょう。

薬効の歴史―利尿薬から始まった!

 ジギタリスの薬効に初めて注目した人物は、イギリスの医師Witherringでした。現在はうっ血性心不全の薬として広く用いられていますが、はじめに注目されたのは利尿剤としての効果でした。

 18世紀中頃、彼はバーミンガム地方への旅の途中、先住民から水腫を患った老婆を診察してくれと頼まれました。水腫は当時、命に関わる末期症状だと考えられていました。彼は、残念ながら治る見込みはなく、余命もあまり長くないと伝えました。しかし、数週間後に訪ねてみると、その老婆はすっかり治っていたのです。老婆の家族に尋ねると、20種類以上の薬草から作った秘薬で治ったとのことでした。彼はその秘薬の成分を分析し、ジギタリスに利尿効果があることがわかりました。

 また、彼はジギタリスの研究中の1776年に、強心剤としての効果があることも突き止めました。そして1785年、「水腫およびその他の病気に関するジギタリスとその実際的な薬効についての評価」という、ジギタリスの薬効をまとめた著書を出版しました。この本はその後の長い間、医学の古典書として評価され続けることになります。

 ジギタリスの葉末はもちろんですが、その誘導体であるジゴキシンやジギトキシンが世界中の多くの人々を救っています。そんなジギタリスの豆知識を知っておいてくださいね。

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