処方箋に検査値を記載する病院が次第に増えていくことが予想される昨今において、これまで以上に薬剤師にも検査値の知識が求められます。ただ、検査値といっても色々な視点がありますが、臨床検査技師レベルの知識が求められているかと言われれば必ずしもそうではありません。薬剤師は、薬と検査値との相互の関係に着目した知識を持つべきかと思います。そして、医師や臨床検査技師が考えないような観点から患者さんにアドバイスすることが必要です。今回は具体的な例を参考にして一緒に復習していきましょう。

意外とスルーしがちな睡眠薬の持ち越し!!

眠れない患者さんによく処方されるのがマイスリー®(一般名:ゾルピデム酒石酸塩)です。これは超短時間作用型で、朝までの眠気の持ち越しが比較的少ない薬です。そのため、まずはマイスリー®が処方されることが多いようです。しかしながら、服薬指導時に体調変化を患者さんに聞いてみると、「この薬飲むと確かによく眠れてはいるんだけど、朝、起きた時に眠くてふらふらしてしまうことがあるんだよね」という答えが返ってくることが意外と少なくないです。こういう時には、「まあ睡眠薬だからあり得るだろうな、それに処方医も把握しているから経過観察で大丈夫かな」とスルーしてしまいがちですが、薬の特徴に対して一番精通すべき薬剤師であれば、「作用時間が短いはずなのに、何故朝まで残ってしまうのだろうか?」とまずは疑ってみるべきかと思います。

重篤な状態が潜んでいる可能性も?!

マイスリー®の添付文書を見てみると、禁忌のところに、『重篤な肝障害のある患者[代謝機能の低下により血中濃度が上昇し、作用が強くあらわれるおそれがある。]』と記載されています。そこで今回の事例の場合には、肝臓に何か問題があるからと疑ってみて、肝機能に関する検査値(特に肝機能障害のランクを決める時に参考にするAST、ALT、ALP、T-BIL)を確認することが必要です。患者さんに聞いてみて検査を受けているならその検査値をヒアリングし、患者さんが忘れているようであれば病院へ確認すると良いです。今はマイスリー®の効果が朝まで残るだけで済んでいますが、重篤な肝障害が潜んでいる場合には放置することでその肝障害自体がさらに進行してしまうかもしれないからです。

他の睡眠薬でも肝機能はポイントになってくる!

短期作用型や中期作用型のものは基本的には翌朝まで残りにくいことが特徴ですが、これらも肝障害が潜んでいる患者さんでは話は別で、翌朝まで眠気が残ることが多くなります。成分として、短期作用型のトリアゾラム、ゾピクロンなども肝障害がある場合にはその重度に関係なく慎重投与になっています。また、中期作用型のブロチゾラム、フルニトラゼパムなどでも同じく肝障害の場合には慎重投与となっています。実際に薬を渡す薬剤師に宛てて、きちんと肝障害の経過を観察してください、というメッセージが込められているのです。

必要な検査値だけを聞き取ることが大事!!

実務においては、漠然と血圧や血糖値など、把握できるすべての検査値をヒアリングすることが多いと思います。しかし、それにより時間を取ってしまった結果、患者さんの待ち時間が増えてしまっては本末転倒です。かといって、きちんと検査値で経過観察することを怠ってはいけません。そのため、過去の薬歴や、投薬時のわずかな時間での患者さんのセリフや様子から必要な検査値を見抜き、その検査値をきちんと確認することが実務上は大切になってきます。自身が扱うことが多い診療科の疾患に関わる検査値については、特にきちんと把握しておくようにしましょう。そして患者さんに何故この検査値について質問したかも合わせて説明しましょう。

今回の事例のように、薬から必要な検査値を考える勉強を、是非これから心がけてくださいね。