超高齢社会に突入した日本において、医療費の高騰が一層進んでいます。医療費を削減するべく、セルフメディケーションの意識向上が至上命題になっている中、オーダーメイド医療形式を主体とする漢方薬が注目されています。実際に、多くの病院やクリニックで漢方薬が使われており、漢方薬の記載された処方箋を見かける機会も増えてきたのではないでしょうか。また、OTC医薬品として購入できる漢方薬もバラエティに富んでいます。しかし、複雑な理論でできているため、漢方薬は難しいと敬遠している薬剤師の方もいると思います。そこで今回は、比較的身近な存在である、風邪のひき始めの漢方薬を例にとり、実務に活かせるような知識を確認しましょう。

葛根湯は発汗するまでお湯で服薬

「風邪のひき始めに葛根湯」というフレーズを耳にしたことがある方もいるかと思います。確かに風邪のひき始めに服用する漢方薬として葛根湯を選択することはありますが、薬剤師であれば、おすすめするだけでなく、飲み方の指導まで踏み込みたいものです。
葛根湯の説明書には、「通常、成人は1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢・体重・症状により適宜増減する」と書いてあります。とくに強い冷えを抱えている方などでは、通常の飲み方で効かないという場合があります。そんな時は、次の飲み方を提案してみましょう。
まず、お湯で1回分(2.5g)を服用します。そして、すぐに体を温めるような衣服や毛布にくるまります。汗が出てくるまで、30~60分くらい経過をみましょう。もしこの時に発汗が見られないなら、すぐにもう1回分を追加で服用します。そして更に次を飲むときには、4時間くらい空けます。
ポイントとしては、ぬるま湯ではなくお湯であることと、発汗を脇か額で確認することです。全身にダラダラと汗をかくほどの状態であれば、エネルギーを大量に使ってしまい逆効果です。額や脇にさらっと出るくらいが良いでしょう。

葛根湯以外の漢方薬の選択法とは?

葛根湯は、風邪の初期でも寒気がない場合、汗が出すぎてしまうので使えません。また、葛根湯の先述の飲み方は通常量よりも多めに服用するので胃腸に負担がかかり、胃腸の弱い人にも適応できません。このように患者さんの状態によって葛根湯ではない方が良かったり、飲み方を食後服用に変更した方が良かったりすることもあります。
例えば、大人よりも体温の高い子どもや、高熱で寒気が強い人は、より発汗作用の強い麻黄湯(マオウトウ)の方が向いています。子どものインフルエンザの際に麻黄湯が処方されることが多いのはこういった理由からとも考えられます。
ただし、麻黄は胃腸に負担をかけるため、胃腸が弱い方には桂枝湯(ケイシトウ)の方が向いています。服用の仕方は前述した葛根湯と同じですが、ねぎや生姜を入れたうどんや雑炊といった食事をとると、発汗が促進されます。
体力が極端にない方、もしくは年配の方には、麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)が適しています。もちろん若くても体力がない、または熱を出す体力がないといった方にもこちらの方が向いています。麻黄、附子、細辛の3つを含んでおり、1日2~3回に分けて服用することでゆっくりと治していきます。
またこういった方で胃腸が弱い人には代わりに真武湯(ブシントウ)をおすすめします。服用方法は麻黄附子細辛湯と同様です。
服薬タイミングに関して、漢方薬は食前が基本ですが、食後でも効果があるというエビデンスが最近出てきています。そのため、食事をしたために飲めないと患者さんから相談された場合には、食後でも構わないので、きちんと飲むように伝えましょう。

漢方薬は、難しく複雑な理論でできています。そして、漢方薬は長い歴史の中で実際のヒトの服用経験の中から取捨選択を繰り返すことで確立されてきたため、エビデンスが少ないという指摘があることも多いです。それら故にとっつきにくい印象もあるでしょう。しかし、最近ではエビデンスも出てきています。きちんと使いこなせれば体質から変えていける可能性もある漢方薬は、薬剤師としてはぜひ知識を身につけておきたいところです。
患者さんの中には漢方薬は効果の発現が緩やかなために、効き目が弱いと感じる方も少なくありません。通常の用法用量で効いている場合にはもちろん介入の必要はないですが、もし効かないと感じている患者さんがいれば、薬剤師としてはしっかりと相談に乗り、先述のような服用方法変更や漢方薬自体の変更の提案をしてみましょう。ぜひ自分でも勉強してみてください。

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