今や国民病の一つと言っても過言でない花粉症。
その治療法の開発もかなりのスピードで進歩していて、多種類存在しています。
中には既存の薬物治療の概念をくつがえす画期的な治療法も登場してきています。
今回は薬剤師なら知っておきたい花粉症対策最前線を紹介します。

昨年から既に開始されている体質改善をはかる免疫療法とは!?

花粉症対策として、「舌下免疫療法」は知っている方も多いと思います。
花粉が飛ばない時期から2年間、毎日欠かさず花粉エキスを舌の裏からしみこませて、体内に花粉の成分を少しずつ吸収させていきます。
スギ花粉に体が徐々に慣れていくことで症状が緩和されていく、というメカニズムを利用している方法です。

従来の皮下注射による「減感作療法」のように痛い思いをすることなく、舌の裏側にエキスを垂らして数分待って飲み込むだけなので、患者さんにとっても大変やりやすいという利点があります。
一方で、免疫療法自体が不適な人や生活リズムが乱れている人、また鼻の粘膜が腫れていて症状が強い人には効果がないという欠点もあります。
加えて、現在はスギ花粉に限られているという難しさもあります。
スギ花粉以外の場合は、それらに対応できる皮下注射を選択することになります。

花粉症にもワクチンが登場するかも!?

アメリカでは「JRC2-LAMP-vax」というワクチンが花粉症治療に使われています。
今年に入り、製薬メーカーがアメリカの企業とライセンス契約を締結し、治験に向けて準備中ですので、いずれ近いうちに日本にも入ってくることが期待されています。
このワクチンはスギ花粉の主要アレルゲン遺伝子を組み込んだ成分から作られていて、数回注射するだけで良いので大変便利です。
ただし、これも現段階ではスギ花粉に限られています。

今最も期待されているのが実は日本人にとって身近なものを利用した方法だった!

今最も期待されているものがあります。
農業生物資源研究所、日本製紙、サタケの3つの合同チームが開発した「スギ花粉症緩和米(以下、緩和米)」です。
元来、米の成分の大部分はデンプンですが、タンパク質も少量含まれています。

このタンパク質にスギ花粉の主要アレルゲンタンパク質(アレルゲン全体ではなく免疫反応に関わる一部分だけ)を含むように遺伝子組み換え技術を施したものが、この「緩和米」です。
緩和米を一定期間食べ続けることで、前述した方法と同様、体が徐々に慣れていくことでスギ花粉が来ても免疫反応が起こらなくなります。

ここまでは従来の方法とメカニズムは同じですが、この「緩和米」が他の方法よりも優れている点は、毎日食べる米を利用しているので気持ちの面でも受け入れやすいという点です。
さらに特筆すべきなのは、腸に到達するという点です。
腸は免疫機構の中で最大の装置である腸管免疫系をもっています。

よく聞くことですが、腸内細菌が免疫に重要というのもこのことが理由です。
アレルゲンが含まれるタンパク質は胃では分解されず腸に到達することがわかっていて、腸管免疫に直接働きかけることができるという訳です。
サル、マウスでの実験に続き、すでにヒトでの臨床研究も開始されていて、効果が確認されてきているようです。
しかも副作用が今のところ確認されていないそうです。

この臨床研究を主導している研究グループによると、最終的には「米から作った薬」という植物性薬剤としての実用化、が目標として設定されているそうです。
今はスギだけに限られていますが、技術的には他のアレルゲンにも応用可能で、何と血圧や中性脂肪の薬にも応用できるそうです。

日々進化する花粉症対策研究の動向を、薬剤師としてしっかりと把握しておきましょう。