超高齢社会に突入している日本では、認知症の増加が懸念されています。薬剤師の皆さんも認知症関連の医薬品を目にする機会も増えてきたのではないでしょうか。その中でも特に厄介なアルツハイマー型認知症(以下、アルツハイマー)の増加が心配されています。この研究は今どこまで進んでいるのでしょうか。

認知症には色々な種類がある!

知的機能の低下によって何らかの生活障害がおこる疾患の総称を認知症と呼び、原因や症状によって分類されています。

アルツハイマーは、異常なタンパク質のアミロイドβ(Aβ)が脳に蓄積することで神経細胞を破壊し、結果として脳が委縮することで発症します。人の名前を忘れるなどの記憶障害のほか、今がいつなのかが分からなくなるとう見当識障害なども起こります。

他の認知症としては、下記のような種類があります。

  • レビー小体型:アルツハイマーと似ているが、異常なタンパク質のレビー小体が脳に蓄積して神経細胞を破壊することで発症
  • 脳血管性:脳梗塞や脳出血などで血管がつまる、または出血することで脳への酸素供給が滞り、神経細胞が死んでしまうことで発症
  • 前頭側頭型(別名ピック病):前頭葉と側頭葉が委縮することで発症
  • アルコール性:多量のアルコール摂取による脳血管障害や、ビタミンB1の欠乏による栄養障害などで発症
  • 正常圧水頭症:脳脊髄液が脳室に溜まることで脳室が膨張した結果、その周辺の脳が圧迫されることで発症

認知症とひとくくりにしても、全部が治療不可能という訳ではなく、例えば、アルコール性は内科的治療で、正常圧水頭症は外科的治療で治療可能です。

アルツハイマーの診断時に最近問題となっている事柄とは?

アルツハイマーは認知症の約6割を占めていると言われていますが、近年の研究によって、実はその中には非アルツハイマーの病態生理の疑い(Suspected non-Alzheimer’s disease pathophysiology: SNAP)があるもの含まれていることがわかってきました。Aβは正常であるのにアルツハイマー型と似たような症状が出るというものです。

前述した他の認知症なのにも関わらず、医療者が誤った診断をしてしまうと、適切でない治療法が取られてしまうことになります。現在、根治療法に使うための抗Aβ薬が開発されていますが、これが臨床現場に使われるようになった際に正しい診断ができないと、せっかくの新薬が効かずに副作用が出るだけということもありえるので、将来を見据えても注意が必要です。

この診断には、保険適応外ですが、アミロイドPET検査が有効です。アミロイドの有無が確実に画像化されるため、認知機能検査と併せて行うことでアルツハイマーの診断がより正確に行えるのです。また、別の研究によると、アルツハイマーと診断された人の最大で3分の1が実は大脳辺縁系優位型老年期TDP-43脳症(Limbic-predominant age-related TDP-43 encephalopathy: LATE)と呼ばれるまったく新しい認知症に罹患している人だということです。

このLATEの症状はアルツハイマーととてもよく似ている反面、進行はやや穏やかで、関連するタンパク質はアミロイドではなく、TDP-43という違いがあります。もちろん、どの認知症でもこういったタンパク質以外にも複合要因が絡んでいるので、確実な診断を出すのは簡単なことではありません。

最先端の研究成果とは?

アルツハイマーの研究はかなり進み、様々なことがわかってきました。例えば、アルツハイマーは、国民病と言われるほど蔓延しているがんと実はシーソーの関係だということがわかってきました。もちろんすべてのがんという訳ではないですが、肺がんや白血病などの多くのがん罹患者ではアルツハイマーのリスクが低下するということです。こういった研究が進めば、がんとアルツハイマー両方に使えるような画期的な新薬が生まれるかもしれません。

また、糖尿病の病態形成の引き金となるインスリン抵抗性がAβ形成を促すことが分かったことから、アルツハイマーは「脳の糖尿病」とも呼ばれるようになってきました。インスリン抵抗性を改善する医薬品はアルツハイマー防止薬として応用できるようになるかもしれません。

加えて、Aβから始まり神経原線維変化に至るアルツハイマー悪性化のメカニズムはこれまで謎でしたが、ここに関わる因子が発見されたことで、今後は進行自体を積極的に抑制できる治療薬も開発できるようになると期待されます。アルツハイマーの研究は、がん研究と同じぐらい速いスピードで進んでいます。薬剤師としてもこれから出てくる新薬の可能性には常に注目しておきたいですね。ぜひ覚えておいてください。

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参考文献
「アルツハイマー病」と診断されている人の一部はSNAPである—認知症診断における最新の知見
癌とアルツハイマー病は逆相関
2型糖尿病におけるインスリン抵抗性がアルツハイマー病脳のアミロイド蓄積を促進するメカニズムを解明
アルツハイマー病の悪性化に関わるタンパク質の発見