女性の社会進出が進み、結婚する年齢が昔よりも上がったことに伴い、妊娠・出産する年齢も上がりました。そういった中、不妊で悩む方も増えてきています。女性だけの問題ではもちろんなく、不妊の原因の約半分は男性側の問題でもあるという結果も出ています。薬剤師でも簡単な相談に乗れるようにしておきたいものです。今回は不妊について見てみましょう。

そもそも妊娠の仕組みとは?

卵巣内には卵子の素となる原始卵胞と呼ばれる細胞がたくさん含まれています。そのうちの1つだけが1ヵ月ごとに1回成熟し卵巣の外へと飛び出してきます。この過程が排卵です。排卵を正しく起こすために必要となるのは脳の視床下部から分泌される卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体化ホルモン(LH)です。卵巣外へと放出された卵子は卵管采に取り込まれた後に卵管の中へと入っていきます。また、排卵近くになると、子宮頚管粘液がたくさん分泌されることで精子が子宮へと到達しやすい状態になります。膣内に射精された精子はこの粘液をかき分けながら卵管へと到達し、そこにいる卵子と結合し融合します。この過程が受精で、精子と卵子が融合したものが受精卵です。受精卵は分割を繰り返しながら子宮内膜まで運ばれそこに張りつくことで妊娠が完成します。これを着床といいます。加えて、排卵が起きた後の卵巣からは黄体ホルモンが分泌され妊娠を維持できるような状態を作り出します。

上記の過程のうちどれか1つでも欠けてしまうと、妊娠は成立しません。健康状態に問題のないカップルが性行為をしたとしても100%妊娠する訳ではないのも理解できると思います。

不妊の定義は色々ある?

元来、WHOにおける定義では、「子供を望み、避妊せず、自然な性生活があるカップルで、2年間の不妊期間があること。」となっています。しかしながら、不妊期間に関しては年齢や持病の有無などを加味するべきであることなどを踏まえ、日本産婦人科学会では、「生殖年齢の男女が妊娠を希望し、ある一定期間、避妊することなく通常の性交渉を継続的に行っているにも関わらず、妊娠の成立を見ない場合を不妊という。その一定期間については1年というのが一般的である。なお、妊娠の為に医学的介入が必要な場合は期間を問わない。」としています。

この1年という期間については、妊娠する能力を持っている健康状態が正常なカップルでは3ヵ月で約50%、6ヵ月で70~80%、1年で約90%が妊娠するというこれまでの医学的データともほぼ一致するものなので理にかなったものと言えます。

不妊の状態や治療は複雑?

妊娠に至るまでの過程は前述したように複数のステップを経るため、不妊の原因もたくさんあります。それに伴い、やはり治療法もたくさん存在するため全部をここで把握するのは不可能ですが、最低限知っておきたいことを説明します。

まずよく誤解されがちなのが人工授精と体外受精との違いです。第一段階治療(一般不妊治療)の1つである人工授精は、採取した精液中から運動能力の高い精子だけを取り出して濃縮し、妊娠しやすいタイミングで子宮内に直接注入する方法で、妊娠成立までの過程は実は自然妊娠と同じになります。一方、体外受精は第二段階治療(高度生殖医療)の1つであり、卵子と精子を同じ培養液の中で培養して受精を起こさせ、受精卵を子宮に戻すという方法になります。名前とは違っていますが、体外受精のほうがまさに人工的な治療法となることは覚えておきましょう。そして、薬剤師が特に関わるのは一般不妊治療の中の薬物療法だと考えられます。薬局にいらっしゃる不妊治療の患者さんは比較的軽度なことが多いです。もし長いこと薬を飲んでいるのに改善しないなどの場合には、主治医と次の高度生殖医療の可能性を含めて相談するように勧めてあげるとよいかと思います。

不妊治療には漢方薬が向いている?

跡継ぎを絶対に必要とした昔は特にですが、長い歴史の中で不妊というのは対処すべき重要なものでした。だからこそ、歴史の長い医学である中医学、そこから派生して進化してきた漢方医学は元来、不妊治療を大変得意としています。現に不妊治療においては漢方薬が多く使われていますのでしっかりと押さえておきたいものです。

男性不妊によく使われるのは(1)補中益気湯(ホチュウエッキトウ)と(2)八味地黄丸(ハチミジオウガン)です。
(1) 補中益気湯(ホチュウエッキトウ)は体力がなく疲れやすく食欲がない人に向いていて、勃起障害や精子の運動状態を改善してくれます。(2) 八味地黄丸(ハチミジオウガン)は足腰や泌尿生殖器などの下半身の機能を強化し、生殖機能や排尿機能を高めてくれます。加えて、精子の数を増やし、運動状態の改善にも繋がります。

女性不妊によく使われるものとしては、(3)温経湯(ウンケイトウ)、(4)当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)、(5)桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)、(6)当帰建中湯(トウキケンチュウトウ)があります。
(3) 温経湯(ウンケイトウ)は不妊の漢方薬の一番有名なもので、月経不順や月経困難症などによく使われます。冷え性や唇の乾燥が気になる方に特に適しています。(4) 当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)は全身に栄養や熱を巡らせるだけでなく、余分な水分を体外へ排出させる効果があります。女性特有の悩みに幅広く使えるオーソドックスなものです。(5) 桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)は下半身が冷えているにも関わらず、顔がほてるという方やしみができやすい方、生理痛がひどい方に特に向いているもので、滞った血の巡りを良くする効果があります。(6) 当帰建中湯(トウキケンチュウトウ)は体を温めて血行を良くするもので、冷え性がひどい人に特に向いています。

他にも不妊で使える漢方薬はたくさんあります。加えて、ホルモンに関する薬もたくさんあります。ぜひご自身でも勉強してみてください。

リクナビ薬剤師では働く薬剤師さんを応援しています。転職についてお悩みの方はこちらのフォームよりご相談ください。