超高齢社会突入に伴い、2人に1人ががんに罹患し、3人に1人ががんで死ぬというがん大国になってしまった日本。しかし、医療の高度化が進み、がんは不治の病とはもはや言えなくなってきたという側面もあります。このような中、漢方薬も実は重要な役割を果たしています。今回はがんと漢方について紹介していきます。

がんと漢方薬の相性とは?

がんは別名、「悪性新生物」とも呼ばれています。何らかの原因により正常な細胞の遺伝子が異常になってがん細胞へと変化した後、このがん細胞が異常に増殖してしまってがん組織へと進展してしまうというのがメカニズムになります。
つまり、がんは異物ではなく、身体自身が作り出すものということです。つまり、がんを予防するためには自身の身体を異常な状態にしないようにすると良いとも言えます。

漢方薬は身体全体のバランスを調整することを得意とするため、がん予防に向いているものだと考えられます。では、がん増殖やがん転移にはどのように効果を発揮できるのでしょうか?

漢方薬にも限界が?

前述したがん予防やがん増殖抑制、がん転移抑制はもちろん大事ではありますが、一番大事なのは、出来てしまったがん自体を消し去ったり、取り除いたりする放射線や外科的ながん治療になります。漢方薬だけでがん治療をしようとする方もいらっしゃいますが、完全に出来てしまったがんの治療には漢方薬は実はあまり向いていない、というより、漢方薬だけではがんの治療はできないと言われています。

歴史があり、一見万能そうに見える漢方医学にも限界があります。がんを取り去るということなら、一番手っ取り早いのは外科的療法で体外へ取り除いたり、放射線治療でがんを積極的に破壊したりするというのがベストになります。

実は歴史上でもこんなエピソードがあります。手術で乳がんを取り除くべく、全身麻酔の人体実験を母親や妻で行ったことで有名な江戸の名医である華岡青洲は、実は漢方医学の名医でした。何故そんな漢方医学のプロであった彼が、身内を使った人体実験を行ってまでがんの手術を行うことにこだわったのかというと、彼自身がプロとして長年研究している中で、漢方医学ではがんを治せないことを悟ったからとの推測があります。

がん治療における漢方薬の役割とは?

それではがん治療には漢方薬は全く使えないかというとそういう訳でなく、がん治療において生じる倦怠感などの様々な不具合に対処したり、身体が本来持っている抵抗力を増強したりするのに適しています。西洋医学のがん治療では身体が弱ってしまうことが多いですが、身体のバランスを整えることを目的とする漢方医学によって、がん治療によるダメージをなるべく正常に戻すというのは理にかなっていると言えます。

漢方医学では、がん治療を「扶正袪邪(ふせいきょじゃ)」で考えます。「扶正」とは正気(体力や抵抗力)を増強することで、「袪邪」は身体にとって不都合なものを取り除くことです。この袪邪はウイルスなどにも当てはまるため、感染症の時にも考慮される概念です。
ただし、がんのような自身の身体が作り出すものの場合には、ウイルスなどとは異なり、明らかに異物とも言えないため、がん治療を漢方医学で考えた際には、袪邪よりも扶正の方がメインの役割と言えます。つまり、前述したように、がん治療中に衰えてしまった体力や抵抗力を増強させることで、間接的にがんに対処していくというのが漢方薬の得意とするところです。

実際に使われている漢方薬とその特徴とは?

一番よく使われているのが「補中益気湯(ホチュウエッキトウ)」になります。これは「元気になる漢方薬」の代表格でもあり、広く疲労などに使われます。消化機能の低下や四肢の脱力感がある時に向いていて、免疫能の維持にもつながるものです。

特に胃に不調が強く食欲不振や嘔吐が強い時には、「六君子湯(リックンシトウ)」が適しています。

体力と気力ともに弱くなってしまって、体重減少、筋力低下、皮膚の乾燥などが顕著な場合には、「十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)」が適していて、放射線治療と併用することで、その副作用軽減も期待できます。

肺がんなどの呼吸器系のがんによって呼吸器症状が見られる場合、また、がん治療中の副作用で呼吸器症状が見られる場合には、「人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)」が向いています。

がん治療中にひどい下痢が見られる場合には「半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)」が、また、下痢に加えて体力がない状態の場合には、「真武湯(シンブトウ)」が適しています。

治療の副作用として、とにかく吐き気や嘔吐がひどい場合には、「小半夏加茯苓湯(ショウハンゲカブクリョウトウ)」が良いです。

また、治療中に不眠や食欲低下が見られる場合には、「加味帰脾湯(カミキヒトウ)」が、情緒不安になってイライラが強い場合には、「加味逍遙散(カミショウヨウサン)」が適しています。この2つの使い分けで目安となるのが、前者は、あまり症状を訴えてこない内向的な感じの方に、後者は、色々な症状をはっきりと訴えてくる外向的な感じの方にと覚えておくと良いと思います。

薬剤師であれば、がん治療中の患者さんの相談にのることも今後増えてくると思います。ぜひ漢方薬で積極的に対処できるようになりましょう。ご自身でも勉強してみてください。

リクナビ薬剤師では働く薬剤師さんを応援しています。転職についてお悩みの方はこちらのフォームよりご相談ください。