超高齢社会に突入した日本においては、がんの増加と共に、認知症の増加も社会問題になりつつあります。認知症に関しては診断法や治療法の研究がかなり進んでいますが、実は漢方薬の中にも有効なものがあります。今回は、認知症と漢方薬という切り口で見ていきましょう。

認知症の種類を知ろう!

認知症と言ってもいくつかの種類があります。
代表的なのは、認知症の約半数を占めるアルツハイマー型認知症です。脳内にアミロイドβとタウと呼ばれる異常タンパク質が蓄積することで脳が萎縮してしまいます。それにより、物忘れなどの記憶障害や、判断力低下などの見当識障害が見られるようになります。

他にも、アルツハイマー型に似ていますが、レビー小体と呼ばれる特殊なタンパク質が神経細胞にできて蓄積することで脳が萎縮していくレビー小体型認知症があります。症状としては、アルツハイマー型認知症のように物忘れや、パーキンソン病のような運動障害などが出現しやすいですが、記憶中枢である側頭葉と情報処理中枢である後頭葉が萎縮するため、幻覚や幻聴などが現れることがアルツハイマー型と違う点となります。

また、脳梗塞や脳出血などを発症した後に、脳の血流が滞って脳細胞が損傷を受けることで発症する脳血管性認知症もあります。脳内の障害を受けた部分と正常な部分とがまちまちなので、物忘れがあっても判断力は正常などといった、いわゆる「まだら認知症」という状態になりやすいという特徴があります。もちろん、障害部分によっては身体に麻痺などが出てしまうこともあります。症状としては、中核症状(記憶障害など)、周辺症状・BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)(行動・心理症状など)、神経症状や身体症状が出る可能性があります。

漢方医学で考える認知症の病態とは?

もちろん、漢方医学でも西洋医学でも、老化を防ぐことは不可能ですが、認知症の原因を改善したり、認知症の発症を遅らせたりなどは可能となります。漢方医学では、認知症の原因として、(1)瘀血、(2)腎虚、(3)脾気虚、(4)肝鬱気滞を主なものとして考えます。

(1)瘀血は、血の巡りが悪くなった状態を指します。脳への血流が悪くなることで認知症症状につながると考えます。この病態は、まさに脳血管性認知症が該当します。

(2)腎虚は、生命を維持するためのエネルギーである腎精が不足した状態を指します。実は、この腎虚の進行の個人差が老化の進行の個人差につながると考えられています。この病態は特に、アルツハイマー型認知症のような脳萎縮型の認知症に関係しています。

(3)脾気虚は、脾=胃腸の働きが弱まってエネルギーや栄養の産生が不足した状態を指します。脳への栄養供給が滞ることで、脳の働きが低下してしまい、結果として認知症の症状が出るようになります。特に、手術歴や病歴がある方がこれに陥りやすいと言われています。

(4)肝鬱気滞は、過剰なストレスが気の巡りを悪くしてしまった状態を指します。これにより、情緒不安定となります。この病態の特徴としては、認知症症状が、環境の変化などによって良くなったり、悪くなったりすることです。また、比較的若くてもなりやすいものです。

具体的に使われる漢方薬とは?

前述した各病態に対して、それぞれに適した漢方薬で対処することになります。
(1)瘀血:血の巡りを良くすることを目的とした冠元顆粒(カンゲンカリュウ)など
(2)腎虚:腎の機能を高めることができる六味地黄丸(ロクミジオウガン)など
(3)脾気虚:胃腸の機能を回復させることができる補中益気湯(ホチュウエッキトウ)など
(4)肝鬱気滞:気の巡りを良くすることで精神をリラックスさせるように導ける加味逍遙散(カミショウヨウサン)など

認知症の具体的症状に対してのエビデンスが報告された漢方薬もあります。認知症では中核症状よりも、周辺症状・BPSDが攻撃的行動や徘徊などに繋がり、認知症患者ご自身だけでなく、介護をする周りの方の負担になります。この症状には、抑肝散(ヨクカンサン)が有効であるというエビデンスが確認されています。他にも、抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)、酸棗仁湯(サンソウニントウ)、釣藤散(チョウトウサン)なども有効だというエビデンスがあります。

もちろん、中核症状に効果があるものも報告されていて、遠志(オンジ)を含むものになります。なお、遠志はその名前の通り、記憶に効果のある生薬です。具体的には、人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)などがあります。

いずれにしろ、認知症は複雑な病態や症状となりますので、各々に適した漢方薬を選ぶことが一番重要になります。ぜひ、薬剤師が「認知症解決のプロ」になれるようになりたいものです。

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