人工知能(AI)が様々な産業に導入されている昨今。医療業界でもAI導入が進み始めています。医療従事者側、患者側双方に影響するため、医療の在り方自体をがらりと変える可能性を秘めています。そういった状況の中、薬剤師は今度どのようにAIと共存していけばよいのでしょうか?今回はこのテーマを一緒に考えてみたいと思います。

医療とAIの関わりの歴史とは?

AIは最新科学に基づいた新しい概念と考えられていますが、実はその歴史は意外と長く、ダートマス会議(1956年)でAIという言葉が誕生してから何と50年以上も経っているのです。その中で次第に進化を遂げてきたため、今日でもAIの明確な定義は研究者や技術者の間で異なっています。

1950年代には第1次AIブームが起こり、神経細胞1つをモデルとしたネットワークシステムが考え出されたりしました。この頃から、ただの計算機にすぎなかったコンピューターが人に代わって知的作業を担えるように変貌を遂げていきました。会話応答プログラムが開発されたのもこの頃です。

1970年代には、AIが血液検査の結果から血液疾患を見つけ出し、適切な抗生剤を処方することに成功したことで、研修医レベルの技術ならAIが超えられると考えられるようになってきていました。

再ブームから冬の時代へ!

1970年代後半から1980年代にかけて第2次AIブームが巻き起こりました。すべての物事を「if~then―(もし~ならば―)」で記述することを繰り返していく方法(エキスパートシステム)により、人間と同じような診断ができると期待されました。前述した疾患診断プログラムもこれでさらに進化すると考えられました。

しかしながら、当時のコンピューターの計算速度が遅かったため人間の神経ネットワークの複雑さ(人間が何かを考えて決断する際には脳内にある様々な神経ネットワークが各々関連することで行われる)の模倣が不可能だったことに加えて、診断という高度かつ重要な医療行為をAIに任せてしまっていいのかという議論が巻き起こったため、実際に臨床現場に広がることはありませんでした。

加えて、エキスパートシステムで記述していく場合、神経科学の研究も半ばであったことも影響し、どのくらい繰り返せば人間に近いレベルまで到達できるかが明確ではなかったため、第2次AIブームは過ぎ去っていきました。1990年代では、すべての知識をエキスパートシステムで記述していけば人間と同等になると考えて頑張って試みたものの、すべての人間の知識をコンピューターに覚えこますことは不可能で、AIは冬の時代に入りました。

その後人々の興味はAI冬の時代と同じ1990年代に登場したインターネットへと向けられていきました。AI研究の結果として爆発的に進化したコンピューターの計算能力とインターネットの登場により、医療業界では、診断・治療機器の性能は向上しました。

医学文献を世界中から容易に誰でも見つけられることによる医療技術の拡大・発展をもたらしたものの、「やはり医療における診断や治療は人の手によってしかなし得ない」という文化が残ることになりました。余談ですが、医療は人間によってしかできないというこの考えが、医療系職種人材の需要が高まる一つのきっかけになったとも考えられます。

そして冬の時代からの脱却へ!!

医療系職種人材の需要が高まったことで、人手不足が表面化してきます。そのことで医療ミスが起こる確率も上がってきます。そういった中で単純な業務をAIに任せ、人間にしかできない高度な業務を円滑に遂行するべきという流れになり、AIの必要性が説かれるようになってきました。AIではなく人間が担うべきという考えから、人手不足になり、結果としてAIの必要性が再燃するというのは何とも皮肉なこととも言えます。

ちょうどその頃、コンピューターの進化とインターネットの普及により、大量のデータを保存し、かつ高度な計算を遂行できるようになっていた中、与えたデータを入力すると期待した通りの結果を導き出してくれる機械学習も進化し、人間により近く複雑なネットワーク処理を行える「ディープラーニング」が可能になりました。これは前述したエキスパートシステムの進化系です。

これにより、2010年代に第3次AIブームが始まり現在に至っています。医療業界でも積極的にAIを導入しようとして動いていますが、あくまでそれは、人間の補助として使いこなそうということです。例えば、ある程度特徴がはっきりしている画像診断の一部をAIに任せることで、患者さんの状態を随時把握しながら診断しなければいけないような高度な診断や高度な治療に集中できるようになり、結果として医療の質を上げることができます。

よく薬剤師の仕事はAIで置換可能という話を耳にして不安になっていらっしゃる方も少なくないでしょう。前述したようにAI研究は50年以上も経っていますが、人間と同じ知能とはまだほど遠い状況です。調剤業務、監査業務、在庫管理、薬歴管理は確かにAIでも可能ですが、一番大事である各状況(例えば災害時やパンデミック時)に応じた医薬品管理や患者さんに合わせた服薬指導などは人間にしかできない業務です。AIの歴史や特徴を理解しつつ上手に活かし、人間にしかできない業務にこれまで以上に慎重かつ一生懸命に向き合うことで、AIと共存できる薬剤師になれるものと思います。一緒にがんばりましょう!

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