薬剤師であれば「単位」とは切っても切れない関係にあります。日々の調剤業務で使う単位だけでなく、薬学部時代にはその他の多くの単位を勉強した、まさに単位のスペシャリストといっても過言ではありません。患者さんからも質問されることが多いです。今回はよく使われる単位についてみてみましょう。

単位の基本であるSI単位系とは?

昔から人類は単位を利用して色々なものを測ってきました。ただ世界各国でばらばらだったのです。日本にも日本だけで通用する単位は数多くあります。その国だけで活動するなら問題にならなかったのですが、船や飛行機が開発され、それらがめまぐるしく進化をとげ、世界の国々間での交流が活発になってきた中で、言語の違い以上に、この単位の違いが問題になってきます。

各国間で単位が違うことで誤解が生じ、その結果無駄な争いにつながってしまいかねない懸念も出てきました。こういった問題を解消しようと、1954年の第10回国際度量衡総会(CGPM)において、世界標準として「SI単位系(国際単位系)」が採択されました。こう見ると統一基準が作られたのは人類の長い歴史の中ではまだつい最近の出来事だとわかります。参考までにですが、このSI単位系の基になったのは、世界一の大国アメリカではなく、何とあのフランス皇帝にまで上り詰めた英傑ナポレオンが決めた単位が基になっているところが興味深い点です。フランス革命以降、単位を世界的に統一しようという動きが始まったため、フランスにおいて一番単位の研究が進んでいたからです。

SI単位系は7つの基本単位を組み合わせて色々な単位を記述していきますが、その基本の7つは長さm(メートル)、質量kg(キログラム)、時間s(セカンド)、電流A(アンペア)、温度K(ケルビン)、物質量mol(モル)、高度cd(カンデラ)です。どれも薬学部では当然習うものなので懐かしくなった方も少なくないでしょう。

SI単位系が決まってからも問題が山積み?

SI単位系が制定されたにも関わらず今でも問題が残っているのは事実です。例えば、質量の単位はg(グラム)ではなく。接頭語のk(103)付きのkgです。これは人間や動物などの重さがkgを基本とした方が表記しやすいので決められたと考えられますが、この国際ルールを遵守すると細かい単位を扱う時に面倒な表記になってしまうという問題点が生じます。例えば、10gの質量の試薬をSI単位系で表すと0.01kgとなり、計算がしにくくなってしまいます。特に薬剤師業務ではkgが必要になる場面はそんなに多くないため、むしろg表記のほうがわかりやすいですよね。

世界的に見ても浸透していない国も多いのです。その中でも特に導入に消極的なのが実はアメリカです。具体的に見てみると、長さはフィートとインチで、距離はマイルとヤード、マイルはさらに陸マイルと海マイルに分けられ、かつその数値も違います。近年は次第にSI単位系も導入されつつありますが、何せ世界一の大国であり、州ごとの文化があまりにも違うので、全米で一気に改正ということが難しく、この影響が他の国々にも少なからず及び、世界的に見てもなかなか導入が進んでいないという側面があります。

単位の誤解が大きな事故につながることも!

前述したような状況のアメリカですので、つまりはヤード・ポンド系とSI単位系の2つが乱立している状態とも言えます。1999年にアメリカの火星探査機が火星の軌道に入ろうというまさにその時に連絡が途絶えてしまったというニュースが報道されたことを覚えていらっしゃる方もいると思いますが、当時火星人の仕業かとも話題になりました。原因としてわかったのは、本来の周回軌道に入る高度よりもはるかに低い高度で火星に接近していたことでした。その背景にあるのは、このプロジェクトを進めていたチームの中にヤード・ポンド系と使っていたグループとメートル法を使っていたグループが混在していたことによるのです。たかが単位とあなどることなかれ、ささいな単位の誤解が大きな事故につながりかねないことを証明した事件でもありました。

薬剤師業務の中でも例えば医薬品の量0.1kgを0.1gと誤解してしまえばまったく薬の効果が見込めないということにもつながるため、やはり単位の理解は大事ですよね。また近年増えている外国人の患者さんに質問する際に、返ってくる単位にも注意が必要になります。

今回の豆知識は患者さんとの雑談でも使えます。ぜひ今回の話で単位についてさらに興味を持っていただき、単位を日々意識することの重要性を今一度実感してみてください。また、実生活には影響はないものの、2018年には130年ぶりにkg、A、K、molの定義が変更されたという報道もありました。こういった最新の話題にも目を向けると面白い気付きがあるかもしれません。

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