科学が発達していなくて、微生物という概念が浸透していなかった古来より、人類をたびたび恐怖に陥れてきた感染症。日本においては過去、結核が大きな国民病の1つでした。有効な抗菌剤の登場により、患者数は激減しましたが、現代においてもきちんと対処すべき病気であることには変わりありません。今回は結核治療について勉強してみましょう。

結核治療の歴史を振り返ってみよう!!

有効な薬剤が存在しなかった時代は、元々の自然治癒力に頼らざるを得ない状況でした。具体的に言うと、栄養をしっかりと摂って安静にしているという単純なものでした。当時の日本は栄養状態が現代と比べると決して良くはなく、自然治癒力では限界があったため、結果として完治が困難なものとなっていたのです。

その後、フレミングによって、リゾチーム、ペニシリンという抗菌剤が発見されましたが、結核菌には効果がありませんでした。しかしながら、抗菌剤の発見に加えて、全身麻酔が発達し、外科手術が可能となったことで、結核患者の肺の一部を切除するという治療法がとられるようになりました。

感染症である結核に対して手術が行われていたというのは驚きですが、それくらい当時の人々にとっては何としても取り除きたい脅威だったと考えられます。そして、ペニシリン発見からおよそ20年後、ワックスマンによって放線菌からストレプトマイシンが発見されたことで治療法が劇的に変わっていきます。

ストレプトマイシンの発見により、根治率は劇的に上がったものの、当時は単独使用だったこと、長期にわたる治療で耐性菌ができやすかったこと、吸収率の問題から注射でしか使用できず、みんなが手軽に行える治療法ではなかったこと、などの理由から、まだ全員を直すまでには至りませんでした。また、重症化してしまうともはや効果が無いというデメリットもありました。

結核には多剤併用が効果的!!

その後、様々な抗結核作用を持つ薬剤が登場してきたことで、治療法がさらに進化を遂げます。多剤併用が可能となったことから、ある薬剤に対して耐性菌ができたとしても、他の薬剤でカバーできるようになりました。特に革命的だったのは重症化結核も根治可能であるリファンピシンの登場です。

それまでは、ストレプトマイシン・イソニアジド・パラアミノサリチル酸の3剤併用療法で約1年半~3年の治療期間を要しましたが、リファンピシンの登場後、9ヶ月へと期間の短縮が可能となりました。さらにここにピラジナミドを加えるとさらに短く6ヶ月月で治療可能となります。

具体的な使用方法は、最初の2ヶ月間はイソニアジド・リファンピシン・ピラジナミド・エタンブトールまたはストレプトマイシンを併用し、その後4ヶ月間はイソニアジド・リファンピシンで治療継続というものになります。治療期間が短くなったことと内服薬での治療が可能となったことで患者さんのコンプライアンス上昇やQOL向上にもつながることになり、さらに有効な治療となりました。

参考までにですが、ピラジナミド追加によるさらなる治療期間短縮の理由としては、他の薬剤が効きにくい酸性環境にある細菌にまで効果的であるためだと考えられています。患者さんから、なぜ結核治療にはこんなにたくさんの薬剤を服用しなければいけないのか、と聞かれることも少なくないですが、そういう時には今回の話を思い出してぜひ説明してあげてください。

結核治療中の患者さんにおける注意点とは?

薬剤師として注意しておいたほうがいいことがいくつかあります。結核と聞くと、肺の病気と思いがちですが、実はそうではありません。結核のうち、肺結核の割合が多いのは事実ですが、結核菌それ自体は全身に感染しうるものなのです。

例えば腸結核というものも存在します。そして結核自体は感染しても潜伏している状態であれば、感染率はそんなに高くないことも覚えておきたい点です。また、潜伏状態の初期症状では、他の病気と間違えてしまうこともあるようです。

ここで注意があります。例えば、結核治療中、もしくは結核菌が潜伏状態の患者さんが、これまで普通に通っていた皮膚科で、アレルギー治療としてステロイドなどの免疫抑制剤が処方されたとします。あくまで薬の服用目的はアレルギーを抑えることですが、とどのつまり、免疫自体が弱まるということです。

そうすると、潜伏している結核菌が一気に活性化したり、せっかく治療によって減らした結核菌の数が増えてしまったりするということになります。薬のメカニズムに誰よりも精通している薬剤師だからこそ、こういった事態にはならないようにすることが求められます。

潜伏している結核にはなかなか難しいですが、あきらかに結核治療中だとわかる患者さんが別の病院やクリニックで免疫抑制系の薬剤を処方されたという状況に出くわした際には、患者さんにきちんと説明し、疑義照会を行ってください。

また近年、WHOは、結核治療は薬を継続しないと効果がでないことから、結核患者さんがきちんと薬を服用するのを他の人に見届けてもらう「DOT(Directly Observed Treatment)」をすべての患者に行うことを提唱しています。多剤併用をきちんと管理するという点で、ここではまさしく薬のプロである薬剤師が活躍すべきだと思います。ぜひ「結核撲滅の番人」を目指してみてください。

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