薬の効果を考えるときに、本来、薬の構造の知識は必須です。
薬の添付文書には構造式が必ず書かれています。
学生時代に有機化学でしっかり習ったけれど忘れてしまった方や、学生時代に習う構造式の知識は薬を合成するという観点が多く、臨床を意識しておらず興味を持てなかったという方も多いと思います。
実は薬の構造式は、日頃行っている臨床業務に密接に関係しています。
今回は、「くすりのかたち(南山堂)」の事例を参考にして、紹介します。
構造式の理解で患者さんの深い疑問にも対応できる!
例えば、患者さんから、「ワルファリンと納豆の組み合わせはどうして悪いの?」と聞かれたら、「納豆にはビタミンKが含まれ、ビタミンKとワルファリンの作用は拮抗してワルファリンの効果を減弱させるから」と答えると思います。
患者さんの中にはさらに、「では何故その作用が拮抗するの?」となった場合、きちんと答えられる方はどのくらいいるでしょうか?
もちろん薬局に常備してある書籍や添付文書インタビューフォームなどを調べると思いますが、理由がはっきりと書いてあるものはおそらくないです。
しかしこの質問こそがワルファリンの作用機序の本質で、薬剤師だけが持つ化学的専門知識をフルに活かせる場面です。
医療ドラマや医療ニュースが増えた影響で、最近の患者さんはそれなりに薬についての知識をもっています。
そういった患者さんに、さらにもう一歩の知識を説明できることで薬剤師の信頼性も上がると思います。
この場合の実際の答えとしては、「ビタミンKとワルファリンはその構造がとても似ているから」です。
通常、ビタミンKが体内に取り込まれるとビタミンKキノンレダクターゼという酵素に取り込まれ、活性型ビタミンKに変換されることにより、血液凝固因子の補酵素として作用を発揮します。
ワルファリンはビタミンKと類似構造を取るので、ビタミンKキノンレダクターゼが勘違いしてワルファリンを取り込み、結果としてビタミンKの凝固作用が阻害されます。
ですが、ワルファリンの存在下、納豆摂取によってさらにビタミンKがたくさん存在するようになると、今度は酵素がビタミンKを優先的に取り込んでしまいワルファリンを取り込まなくなってしまうのです。
そのため、ビタミンKの血液凝固効果が強まり、ワルファリンの凝固阻害効果が減弱します。
難しい副作用も予想できる!
通常、薬理作用や作用機序から副作用は予想されますが、予想できない副作用を持つ薬もあります。
例えば、抗精神病薬のクエチアピン。
これの重大な副作用として、体重増加による耐糖能異常からくる高血糖症状があります。
この副作用のメカニズムは不明ですが、一説にクエチアピンのH1受容体遮断が指摘されています。
薬理作用や作用機序からはこの副作用メカニズムを予測することは難しいですが、構造からは意外と簡単に予想できます。
つまり、クエチアピンとH1受容体遮断作用のある他の薬との間に構造類似点があれば、クエチアピンの副作用メカニズムを明確に論理的に説明できます。
現に、H1受容体遮断薬として代表的な抗ヒスタミン薬のセチリジンやエバスチンといったものと見比べると、類似構造がしっかりと存在しています。
このことから、クエチアピンの副作用はH1受容体遮断作用によるものではないかと予想できる訳です。
副作用の把握はとても大切ですが、かといって一つ一つ暗記するのは到底無理です。
今回の例のように、薬理作用や作用機序だけでの予測も限界があります。
是非構造から考えるという姿勢も身につけたいです。
また、薬の相互作用や体内薬物動態なども構造から予測できるものが多いです。
是非構造というものを日頃から眺め、そしてそこから薬のメカニズムや挙動を予測するといったことをやってみてください。