少子高齢化社会の到来や技術進歩など、様々な場面で史上まれにみるスピードで社会が変化しています。変化に日々適応をしなければならない現代社会は、ストレス社会と言われています。ストレスに正しく対処することはQOLの向上にとっては重要なことです。ストレスと言っても様々な種類があり、その影響も多種多様です。今回はストレスに対処するための漢方薬を学んでみたいと思います。
そもそもストレスとは何?ストレスを感じる仕組みと原因
ストレスという言葉はよく使われるものの、具体的なイメージがわかないという方も少なくないと思います。よく例えられるのですが、ゴムボールで説明するとわかりやすいです。
ゴムボールを強く握るとへこみますが、この時に加えられた手の握力がストレッサーです。その際に生じるゴムボールのへこみがストレスになります。ゴムボールはへこんだ後に元の形に戻ろうとしますが、この元に戻ろうという反応のことをストレス反応と呼びます。つまりは、何らかのストレッサーによってストレスが生じ、それを回復させようとストレス反応が起こるという流れになります。
この際のストレッサーは多岐にわたり、けがや過労といった身体的なもの・気圧の変化といった物理的なもの・騒音といった環境的なものなどの外的因子だけではなく、親しい人の死といった精神的なもの・職場の同僚との関係性といった人間関係から来るものなどのような内的因子も含みます。
また、外的因子の場合にはその原因を取り除くことは比較的容易ですが、内的因子の場合にはストレスを感じている当事者以外の人からは理解しづらく、取り除くことが難しくなります。いずれにせよ、大小はあれ、誰しもが何らかのストレスを感じていると考えておいた方がよいでしょう。
多岐にわたるストレス反応
ストレスに対するストレス反応としても色々な種類があります。人の身体には恒常性を維持しようという機能が備わっていて、ストレスが弱くかつ短時間であれば、ストレス反応によって恒常性を維持できますが、過度になると恒常性のバランスが崩れ身体的に影響を与えます。
恒常性維持の機構としては、主に(1)自律神経系、(2)内分泌系、(3)免疫系の3つがあり、過度なストレスはこのどれか、もしくはいくつかに影響します。具体的な症状は多岐にわたりますが、代表的なものでいうと頭痛・胃炎・めまい・にきび・月経不順・顎関節症・不整脈・喘息などです。また、精神的な症状も出ることももちろんあり、うつ状態・不眠・各種依存症などです。
ストレスは絶対的に悪者?
ストレスというと悪いものとばかり思いがちですが実はそうではありません。ストレスには悪いストレスがあるのはもちろんですが、良いストレスもあります。前者を「ディストレス」と呼ぶのに対して、後者を「ユーストレス」と呼びます。この時の「ユー」は「ユートピア(楽園)」のものと同じになります。
例としては、受験生が試験の際に感じるストレスやアスリートが試合の時に感じるストレスなどが挙げられます。どちらもストレスには違いないですが、適度なストレスがあった方が緊張感や集中力が保たれ、結果としてやり遂げた後の達成感にもつながります。もちろん、ユーストレスと言っても過度になったり、その人がディストレスと感じてしまったりした場合には注意が必要になります。
漢方薬の使い分けは?
ご存知にように、人それぞれの証を見極めた上で処方されるのが漢方薬です。ストレス反応のように症状がバリエーション豊富なものの診断は、ある程度の経験が必要にはなりますが、症状からある程度は漢方薬を選ぶことは可能です。まずは主に感じる症状に応じて、a.胃腸症状が主な場合、b.頭痛やめまいが主な場合、c.月経関連症状や更年期障害が主な場合、d.精神的症状が主な場合、に分類します。
次に、さらに個別の症状によって分類します。
a.胃腸症状が主な場合
胃痛+頭痛、肩こり…柴胡桂枝湯
胃痛+胸やけ…安中散
胃もたれ+吐き気…六君子湯
下痢+強い冷え…人参湯
下痢+不眠…半夏瀉心湯
しぶり便…桂枝加芍薬湯
腹部膨満感…大建中湯
b.頭痛やめまいが主な場合
片頭痛+嘔吐…呉茱萸湯
緊張型頭痛+肩こり…葛根湯
c.月経関連症状や更年期障害が主な場合
冷え症、むくみ、立ちくらみ…当帰芍薬散
お血状態による冷えやのぼせ…桂枝茯苓丸
月経前のイライラ…加味逍遥散
d.精神的症状が主な場合
憂うつ+喉のつまり感…半夏厚朴湯
倦怠感…加味帰脾湯
イライラ+不眠…抑肝散
イライラ+赤ら顔、のぼせ…黄連解毒湯
薬剤師としては、まずは薬に頼ることなく、ストレスを解消するための気分転換として音楽や運動をすすめることが第一になります。時には薬剤師に色々と聞いてもらったら楽になったという話も聞きます。ぜひ薬のアドバイスだけではない、ストレス解消に寄り添える薬剤師を目指してください。
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