原子力を安全に利用していくことに再度力を入れる方針であることを政府は発表しました。医療業界においても原子力・放射線をより利用していこうという流れになってきています。その代表に内用療法と呼ばれるものがあります。内用療法を円滑に行うためには、薬剤師の存在が不可欠です。薬剤師が飽和状態にあるといわれている中でも、内用療法は薬剤師が不足している分野の1つです。今回は内用療法についてみていきましょう。

これまでの医療における放射線の利用方法とは?

放射線と聞くと、日本では真っ先に原子力爆弾や原子力発電が思いつく方が多いようです。そのために、放射線は危険なものという認識を持っている人が大半を占めています。もちろん、使い方を間違うと危険ではあるものの、多くの有用性があることから、医療の世界でも幅広く利用されています。有用性の中でも特に優れているのは、放射線が非侵襲的であるという点です。体を傷つけることなく検査ができることから、高齢の患者さんなどに有用であるといえます。

放射線と一口にいっても種類があり、特徴も違うため、放射線の種類による特徴の違いを考慮して、診断や治療に利用されています。例えば、ガンマ線やエックス線は透過性が高いため、診断分野でよく利用されています。具体的には、レントゲン検査、CT検査、マンモグラフィーです。他にも、近年需要性が増している陽電子を利用したPET検査などがあります。

また、治療分野でもエックス線やガンマ線を用いた治療法に加えて、内部被ばくが一番大きいという特徴を持つアルファ線を用いたBNCTなど新しいものも出てきており、放射線が医学に果たす役割が大きくなってきています。

これまでの医療が抱える問題点とは?

これまでの医療では高度な診断や治療を行えば行うほど、時間がかかるという弱点がありました。よく聞く話ですが、大きな病院にかかるまで何日間も待ち、さらには病院で診察をうけるまで、治療法が決まるまで、治療を実際に行うまでにも時間がかかり、その後何日間か入院してようやく帰宅ということが実際にあるそうです。

特にがんの患者さんは、治療をするまでに時間がかかる経験をされたことがあるのではないでしょうか。近年、がんは完治可能な疾患になってきているとはいえ、治療まで時間がかかるという点で、負担が大きいと感じる方も多いでしょう。今回紹介する内用療法では、こういった高度な診断や治療にかかる時間的負担を改善できる可能性があるのです。

今後伸びると考えられている内用療法とは?

内用療法は、別名「Theranostics(セラノスティクス)」とも呼ばれています。これは、「Therapeutics(治療)」と「Diagnostics(診断)」の造語であり、診断と治療を同時に行うという内用療法の特徴を表した言葉です。診断しながら治療も同時に行うことで、これまでよりも治療までにかかる時間を短縮することができます。さらに、放射性医薬品を投与するだけなので、非侵襲的であり、高齢の患者さんが増えている日本においては将来性のある治療として注目を集めています。

内用療法では、透過性に優れたエックス線やガンマ線を診断に使い、殺傷能力が高いアルファ線やベータ線を治療に使います。現在、多くの内用療法では、治療後退院までに2週間ほどの時間を要しますが、将来的には、日帰りも可能になると考えられています。

また、現在は注射による投与ですが、研究開発が進み内服で投与できるようになれば、在宅でも内用療法が可能となり、薬局薬剤師も関わる機会が増えるでしょう。今のうちからきちんと把握しておきましょう。

内用療法における現在の問題点とは?

放射性医薬品は、「医薬品」と「放射性物質」という側面を併せ持つため、違う2つの法律の規制を受けることとなり、管理が大変であるという問題があります。また、核医学分野における放射性医薬品の調製に関しては、「放射線に精通した薬剤師」であることが求められていますが、これに該当する薬剤師が少ないという問題点もあります。放射性医薬品の取り扱いを増やしたくても、「放射線に精通した薬剤師」が見つからないため断念するということも多いです。

放射線に関する知識・資格を取得することで、核医学分野への転職が容易となります。薬剤師としての可能性を広げたいと考えていらっしゃる方は、放射線の勉強を行い、ぜひ内用療法への参画も考えてみてください。

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