福島原発事故以降、放射線の話題が世間をにぎわせています。
ある薬剤師さんから「患者さんから放射線の影響について聞かれたが、うまく答えられなかった」といった話を聞くことがあります。
他方、とある患者さんからは、「ドラッグストアに行った際に薬剤師さんに放射線について聞いたんだけど、適切な回答がもらえなかった。
薬剤師って医療人なのに放射能について知らないの?」といったお話を聞くことが増えたような気がします。
患者さんにとって身近な「町の科学者」「町の医療のプロ」として放射線を知るべき
薬学部には放射化学の講義もありますし、患者さんから見ると薬剤師は医療に関わるプロですので、当然知っていると思われています。
しかしながら、国家試験でも1、2問くらいしか出題されないため、しっかりとした知識を持っている薬剤師は少ないように思えます。
放射線の知識を国民が欲しているこういった時流の中だからこそ、そして患者さんにとっての身近な「町の科学者」「町の医療のプロ」になれるように、是非、薬剤師は放射線についての知識を身につけるべきだと思います。
射線、放射能、放射性物質の違いは、ピッチャーとその能力、そして投げるボール?
患者さんだけでなく、医師や看護師から聞かれる際にも、結構な割合で間違った言葉遣いが散見されます。
まずはここをしっかり抑えて欲しいと思います。
放射線、放射能、放射性物質と似たような言葉が乱用されています。
これをしっかりと区別するとわかりやすいですし、説明する際にも便利です。
たとえば、放射性物質を野球のピッチャーだとします。
そしてピッチャーが投げるボールが放射線、そのピッチャーとしての才能がどのくらいなのかを表す概念が放射能です。
これらをイメージできれば、放射能汚染とよく耳にしますが、正確に言えば放射性物質汚染が正しいということがわかります。
乱用される単位「ベクレル」「グレイ」「シーベルト」。人体にのみ使う単位は?
また、患者さんが疑問に持つ事が一番多いのは単位だといえます。
テレビや週刊誌でも単位の誤用・乱用が多く見受けられます。
細かく言えばきりがないですが、簡単に整理して覚えておくと患者さんに説明しやすいと思います。
まず、汚染水などの話の際に目にする「ベクレル(Bq)」、次に医療器具の滅菌や放射線治療の時に目にする「グレイ(Gy)」、そして、一般的に一番目にする「シーベルト(Sv)」。
この三つの区別をよく聞かれるかと思います。
先ほどの野球の話を使って説明すると、Bqはピッチャー(放射性物質)にどのくらいの才能(放射能)があるかの単位、Gyはボール(放射線)が「モノ」に当たった時にどのくらいの影響を与えるかという単位、Svは「モノ」の中で、「人体」にどのくらいの影響を与えるかの単位です。
人は特別なので、人だけは別に単位を用意したのです。
では何故、「人体」に放射線を当てる放射線治療の時はGyを使うのでしょうか?
その答えとしては、例えば放射線治療では、がんができている特定の臓器に放射線を照射します。
生物学的には、臓器は「モノ」扱いなのです。
別の例で言いますと、昨今話題のiPS細胞は人由来の細胞ですが、こちらに放射線を照射するときもやはりGy を使います。
Svは人体全体の影響の話をするときだけに使う単位なのです。
単位まできちんと説明できる薬剤師になれば、信頼される薬剤師への第一歩になると思います。
次回の応用編では、放射線の種類と人体影響の違い、内部被爆と外部被爆、人体影響を抑えるサプリメントや食事、がんの放射線治療を紹介する予定です。