2020年は新型コロナウイルス感染症が世界中で問題になりました。過去にも人類は何度も感染症と闘ってきました。様々な薬が開発され、衛生環境が良くなったことで感染症は減り、平均寿命が延びた一方で、がん患者数は増えているという状況があります。がんの中には、ウイルスが原因となるようながんもいくつか存在し、昨今若い女性に増えてきている子宮頸がんもその代表的なものです。子宮頸がんを予防するためにHPVワクチンがあります。HPVワクチンについては、現在でも効果や危険性について議論が続いているため、最新情報を把握しておくことが重要です。今回はHPVワクチンについて考えてみましょう。

子宮頸がんはどんながん?

よく子宮体がんと混同している方がいらっしゃいますが、この2つのがんは別のがんです。子宮体がんは子宮内膜から発生するがんのことです。原因としては遺伝性であることももちろんありますが、主に出産経験がないことや閉経が遅いことで女性ホルモンであるエストロゲンの長期間暴露が主であると考えられています。そのため、40歳ごろから患者数が増加傾向にあり、50歳~60歳くらいにピークがやってきます。

一方、子宮頸がんに関しては子宮の膣に続く部分である子宮頸部にできるがんで、患者数と死亡者数ともに増加傾向にあり、20歳~40歳の若い世代での罹患率増加が特に顕著にみられます。この子宮頸がんの原因のおよそ9割以上がヒトパピロマウイルス(HPV)です。このウイルスは性交渉で感染しますが、性交渉経験がある女性のうち50%~80%が感染しているとも推測されています。HPV感染に対処できれば子宮頸がん発生の大部分を抑えられるということになります。

HPV感染から発がんへの流れ

HPV感染を予防すると言っても、一生のうち性交渉を一切しないというのは現実的にほぼ不可能になります。HPVに感染しても通常であれば自然と排除されるため問題ありませんが、たまたま残ってしまった場合にそれが引き金となってしまうのです。

HPVに感染してから子宮頸がんになるまでの期間は数年~数十年と人によって様々ですが、進行過程としてはある程度共通しています。まず感染した細胞の中で異常な形の細胞ができます。これは「子宮頸部異形成」という病態になります。初期は軽度異形成ですが、その一部がさらに高度異形成に進行していきます。この段階を前がん病変と呼び、この段階では一般的に症状が出ませんが、「子宮頸がん検診」で発見することが可能です。しかし、そのまま気がつくことなく放置すると、子宮頸がんへと進行することがあります。

HPV感染者のうち子宮頸がんまで進行するのは約100人に1人と考えられています。HPVにも型があり、その中でHPV16型とHPV18型は特に前がん病変、そして子宮頸がんへと進行するスピードがとても速いといわれています。また、その頻度も他の型よりも高くなります。そのため、この2つを予防することが重要になってきます。

HPVワクチンの特徴と種類

現在、国内で使用されているHPVワクチンには2種類存在し、(1)サーバリックス®、(2)ガーダシル®です。それぞれ特徴があり対応するHPVの型が違ってきます。

(1) サーバリックス®はHPV16型と18型にのみ対応しますが、(2) ガーダシル®はこの2つに加えて、良性の尖圭コンジローマ(性感染症)の原因であるHPV6型と11型にも対応できるものになります。一見、(2) ガーダシル®のほうが優れているように思うかもしれませんが、(1) サーバリックス®に比べて予防効果が長持ちしにくい可能性があるという報告があるため、どちらも一長一短です。

予防効果を期待するものなので、性交渉を経験済みの成人女性には効果がないように思うかもしれませんが、効果はあると考えられています。HPVの自然感染時に、ウイルスが排除されたとしても、十分な免疫が獲得されずに、同じHPVに何度も感染してしまう場合も多いからです。ワクチン接種によって、こういった再感染を予防できるので、結果として発がん確率を下げることができます。

しかし2020年5月現在では自治体からの積極的勧奨はしないワクチンになっています。以前、接種した後、激しいけいれんや歩行障害、全身の痛み、記憶障害などの非常に重い副反応が起きたとの報告が相次いだためです。ただし、その後の研究や調査で、この副反応とワクチンの因果関係はないという報告もなされており、いまだに議論の中にあります。

ワクチンに限らず薬やサプリメントであっても異物である以上は、副作用や副反応を起こす可能性があることは薬剤師のみなさんなら十分にご存知かと思います。ワクチン接種の有無に関わらず性交渉の際にはきちんとシャワーを浴びるなど清潔にしてウイルス量を減らすこと、そして定期的に子宮頸がん検診を受けることも子宮頸がん予防になります。そしてもし患者さんからHPVワクチンに関して相談された際には、医療従事者として最新の情報を伝えることを心がけていただければと思います。

リクナビ薬剤師では働く薬剤師さんを応援しています。転職についてお悩みの方はこちらのフォームよりご相談ください。

参考
厚生労働省「ヒトパピローマウイルス感染症とは」
日本産科婦人科学会「子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために」