患者さん側の認知度も上がり、多くの方が持つようになってきたお薬手帳。アプリ型のお薬手帳も登場し、今後ますますの普及が予想されます。ただ、患者さんだけでなく医療者も本当の意味で正しく利用しできている方は、案外多くないように感じます。以前にもお薬手帳については、コラム「正しく理解してもらおう!おくすり手帳をすすめる際の工夫とは?!」を書きましたが、最近の状況も考慮しつつ、再度見直してみましょう。

お薬手帳の本来の意義を再考すると?

以前にも増して高齢者の多剤服用問題が週刊誌やテレビ報道で取り上げられるようになってきた中、お薬手帳の重要性も増してきています。よくよく考えてみると、お薬手帳とはすごいツールです。お薬手帳がなかった時代には、薬の処方履歴がカルテや看護記録などには記載されていたものの、患者さん側で一元管理されていませんでした。そのため、医療者側の記録が紛失してしまった時には、患者さん側では把握できないというデメリットがありました。

また、あの有名な医療ドラマ「白い巨塔」でも見られるシーンですが、もし医療過誤を隠すためにカルテを改ざんされてしまったらどうなるでしょう。さらにその改ざんをいくつかの病院でされてしまったら、それらの病院に同時に通院している患者さん側では、もはや処方薬の情報が何もわからないということもあったかもしれません。

もちろん薬の説明書はもらえるので、それで薬の管理をできるではないかという反論もあるでしょう。しかし、紙はかさばるため、いちいち律儀に保管している方は少なく、特に、それが毎回もらっている薬だとしたら、説明書などは保管していないけど、何となく名前を憶えているという方が多いと予想されます。

生活習慣病などで、長年同じ薬を飲んでいる患者さんに、薬の名前を憶えている方がいらっしゃるのは事実です。しかし、ご存じのように薬の名前は似たようなものも多数存在しています。さらに、最近ではジェネリックの普及により、後半のメーカー名だけが違うものが多く乱立する時代になってきました。メーカーが違うと添加物が違うので、飲み合わせやアレルギーの観点から、薬の名前を正しく把握しておくことが重要になってきます。以前のようにいつも飲んでいる薬の名前を何となく憶えておけば大丈夫、という時代ではもはやないのです。

加えて、新薬の登場により、これまで飲んできた薬と類似で、かつ、より安全性の高い薬が出てきたことで処方医がここにきて突然変更することもざらにあります。こういった時に、なまじ今まで薬の名前を憶えてきたことが逆効果となり、新しい薬の名前が憶えられないという方も出てきています。これらのあらゆる問題があの小さいお薬手帳一冊で解決してしまうのですから、すごいことだと感じます。

お薬手帳を正しく使えているのか?

前述したように、最近では何も言わなくてもお薬手帳を処方せんと一緒に受付に提出してくれる方も増えてきました。ただ、お薬手帳を「持っている・持ってきた」だけでは正しく使えているとはいえないと感じます。日々忙しい医療者側も、お薬手帳の有無だけを確認するだけで終わってしまっている場合も少なくないです。

そのためか、間違っている使い方をしている患者さんもいらっしゃいます。
具体的には、下記のようなものがあげられるでしょう。
(1)薬局ごとにそれぞれ違うお薬手帳をもらい、別の病院・クリニックの処方に関する手帳シールを別のお薬手帳に分けて貼っている
(2)自分で手帳シールを貼る際に順番がめちゃくちゃになっている、または貼り忘れが見られる
(3)アプリに変更したものの、肝心のQRコード情報を読み取っていない
(4)高血圧手帳など別の手帳に、手帳シールが貼ってある
(5)お薬手帳に処方とは関係ない落書きやメモがある
(6)家族全員分の手帳シールが1つのお薬手帳にすべて貼ってある

ざっと上げただけでもこれだけあります。どれも現場で経験したことがあるものばかりではないでしょうか。

薬剤師としてきちんと対策をしよう!!

それぞれについて、具体的な対策法を見てみましょう。

(1)薬局ごとにそれぞれ違うお薬手帳をもらい、別の病院・クリニックの処方に関する手帳シールを別のお薬手帳に分けて貼っている

対策:何冊も持っているためかさばるだけでなく、そのうち持参が面倒になり結果として手帳いらないということにもなりかねないだけでなく、別の病院・クリニックの薬同士の相互作用チェックがしづらくなるというデメリットもあります。お薬手帳は薬局ごとのものでなく、どの薬局でもらったお薬手帳であっても全国で使用可能であることを再度伝えましょう。

(2)自分で手帳シールを貼る際に順番がめちゃくちゃになっている、または貼り忘れが見られる

対策:服薬指導時に、日記を例に挙げたりしながら、情報が抜けてしまうと正しい記録として機能しません。きちんと日付順で貼るように、また、家に帰ったらすぐに貼るように指導しましょう。

(3)アプリに変更したものの、肝心のQRコード情報を読み取っていない

対策:服薬指導の際に、薬剤師が一緒にQRコードを読み取ることを確認しましょう。

(4)高血圧手帳など別の手帳に、手帳シールが貼ってある

対策:高血圧でかかっている今の病院・クリニックだけの場合には逆に血圧の数値と処方薬が連携できるので有益ですが、他の疾患で別のところにかかった場合の手帳シールを貼ってしまうと処方医も混乱してしまいます。結果として患者さんも混乱することにもつながってしまう可能性があるので、これらのリスクとお薬手帳の意義を再度説明し、新しく作成してもらいましょう。

(5)お薬手帳に処方とは関係ない落書きやメモがある

対策:メモ自体に意味があるのかないのかを考えてしまい、混乱を招く可能性があります。メモに使用した場合は、その後別のメモ用紙に書き写して、不必要なメモを消すように説明しましょう。また、お子さんがいらっしゃる方でお子さんが落書きするなどの場合にはお子さんの手の届かないところで保管してもらうことも手です。もちろん、薬で気になることや処方医や薬剤師などに文面で伝えたいことはきちんと記載してもらうように付け加えます。

(6)家族全員分の手帳シールが1つのお薬手帳にすべて貼ってある

対策:家族の処方歴を同時に確認できるため一見良さそうですが、家族であっても生活習慣は当然違います。また、家族バラバラに来局されることが多いので、来局者以外の情報があるとその都度の相互作用の確認などに余計な時間がかかってしまい、結果として患者さんも無駄に待たせることにもつながってしまいます。こういったことを説明し、個人ごとに管理できるように別々のお薬手帳を作るように指導しましょう。

お薬手帳はいわば、患者さんと医療者とを言葉でつなぐ「命の交換日記」です。お互いが正しく命に向き合えるように、薬のプロである薬剤師が重要な仲介役として頑張ってみてください。

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