コロナ禍が長きに渡り、その間に医療業界の在り方も変化しつつあります。薬剤師業界にもその大きな波が来ていることは皆さんも肌で感じていると思います。今後生き残っていくための術を今回は一緒に考えたいと思います。

薬剤師過剰時代が予測よりも加速している?

コロナ禍で、患者さんがクリニックや病院にかかる頻度が大幅に落ちたことで、処方箋の数が減り、調剤薬局の売り上げが減りました。中にはつぶれてしまったり、薬剤師などのスタッフを大幅に減らす羽目になってしまったり、厳しい経営判断をせざるを得ない薬局も増えてきています。

それにより、特に都会においては薬剤師過剰が加速し、求人も減ってきています。元々薬剤師過剰時代は予測されてはいましたが、コロナ禍でそれが確実に加速してきています。もはや「薬剤師資格を持っている」「調剤業務が出来る」だけでは生き残っていけない時代かもしれません。

コロナ禍でも将来性がある分野もある?!

コロナ禍でも需要がある分野があり、そこには薬剤師が絶対的に必要とされていることはご存知でしょうか?筆者はまさにこの分野の最先端で薬剤師業務を行っており、ときに様々な要望を耳にしたり、また時流を感じたりしています。そして薬剤師が圧倒的に足りていないという現状も確実に感じています。

超高齢社会に突入している中、がんの早期発見の重要性がさらに増していますが、多くのがん検査の中で今最も将来性が高いと言われているのが「PET検査」です。
今はPET-CT検査が主流であり、以前にも増して正確な検査に進化しています。PET検査の中で使われる特殊な医薬品をPET医薬品と呼びます。このPET医薬品は短寿命という特徴があり、医薬品として使用できる時間がかなり限られています。現時点で保険適用となっているFDGに関しては比較的長い時間、使用可能なので、製薬企業からの購入も可能になりますが、他のほとんどのPET医薬品が朝から院内で製造して、昼までには検査に使用する必要があります。

現在保険適応が拡大しており、さらには認知症の診断にもPET検査が正式に適応されることが確実なため、将来性がある分野になります。認知症もがん同様に早期発見が大事になるため、PET検査にかなり期待が寄せられています。

PET検査を拡大するためには薬剤師が必要不可欠!

このPET医薬品を院内で製造して臨床に使用するためには、必ず薬剤師による医薬品の検定試験が必要となります。合成するのは薬剤師でなくてもかまいませんが、これを医薬品として認定するのに必ず薬剤師による認証が必要となるのです。調剤薬局に置き換えると、ピッキングは薬剤師でなくてもいいですが、監査を行い医薬品として患者さんに渡しても良いと認定するのは薬剤師にしかできないということです。考えてみれば当たり前のことですが、実はこれまでこのシステムではなかった、かつ、現時点でもこのシステムを構築できるところは多くはないというのが現状です。

PET医薬品は医薬品である一方、放射性物質という側面も持つため特別な医薬品と見なされており、その管理にも特別な方式を取る必要があります。PET医薬品の検定はもちろん薬剤部に所属する薬剤師など、薬剤師であれば誰でもいいのは事実ですが、現在のガイドラインでは、薬剤部とは別にPET医薬品の「専属薬剤師」を置かないといけないことになっています。この専属薬剤師を置かないと、新しいPET医薬品の臨床試験なども困難となります。また、PET医薬品の製造全体の管理者は薬剤師が望ましいというルールも出来たため、どこの病院やクリニックもPET検査を拡充するためにはPET医薬品を専門とする薬剤師を確保したいという動きになっています。

PET医薬品を専門とする薬剤師に必要なことは?

早期発見に有益なPET検査の需要はコロナ禍でもむしろ増加していて、患者さん側からPET検査をして欲しいという要望を出される方も少なくないです。特に人間ドックの患者さんにその傾向があります。ましてや今後、PET医薬品の拡大や認知症の早期発見にも使うようになるとさらに需要が増えるものと思います。ただし、薬剤師自身がこの需要に追いついていないことから、どこの病院やクリニックも必死になってPET医薬品を扱える薬剤師を探しているのに見つからず断念するというのが現実です(実際に筆者が在籍する東大病院は、専属薬剤師を見つけるまでに2年かかったと聞きました)。

PET医薬品を扱う薬剤師として求められるのは、多くの場合は、「薬剤師免許」と「第一種放射線取扱主任者免許」の2つの国家資格です。つまり薬のプロであると同時に放射性物質・放射線のプロであると証明することが必要となります。病院への就職となると、薬局薬剤師からは困難と思われがちですが、PET医薬品に関しては関係なく、前述した2つの資格があれば経験は問われません。

加えて、将来性があるということで、多くの製薬企業がPET医薬品などの放射性医薬品の新規開発を進めています。感染症の診断にも将来的には使えるかもしれないという研究もなされていることもこれを後押ししています。そういう企業においても前述した2つの資格を持った人を採用しようとしています。

今回のコロナ禍で、薬局薬剤師から病院への転職はおろか調剤薬局への転職すら厳しいと感じている方が多いと思いますが、逆にこんな時だからこそ、ぜひ、第一種放射線取扱主任者を取得してみてください。病院や製薬企業への就職が容易になりますし、次世代医療にも主役として関われます。何より、新しい医薬品を作り出すところから自分で経験できることで非常にやりがいを感じると思います。ぜひ多くの薬剤師の方がPET医薬品分野にチャレンジしてくださることで、この分野が盛り上がることを期待しています。

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