コロナ禍やAI時代など我々を取り巻く環境が変化する中で、薬剤師の働き方にも大きな変化が訪れてきました。今後生き残っていける薬剤師になるためのキーポイントの1つが「かかりつけ薬剤師」ではないかと考えます。目指されている方も多いであろうかかりつけ薬剤師に関して、説明します。

そもそもかかりつけ薬剤師の制度ができた社会的背景とは?

超高齢社会といわれている日本において、全人口に対して高齢者が占める割合は今後さらに増えるであろうと予想されています。少ない現役世代で多くの高齢者を支えなければいけなくなるため、高齢者の医療費削減を目指すさまざまな取り組みが考えられてきました。その取り組みの1つとして、かかりつけ薬剤師の制度が確立されました(かかりつけ薬剤師・薬局と表現する場合があるが今回はかかりつけ薬剤師に統一)。

高齢者は複数の疾患を抱えていることが多く、さまざまな病院へかかったり、多くの薬を使用したりしていますが、自己負担率が低いため、高齢者の医療費は高騰しがちです。一人一人により寄り添うかかりつけ薬剤師という制度があれば、本当にその患者さんに必要な薬だけを厳選することができ、患者さんの健康と医療費削減の両方に貢献できると期待されています。

かかりつけ薬剤師制度の目的とは?

国の肝いりのプロジェクトなので、きちんとした目的が掲げられています。内容は次の3つです。

(1)立地から機能へ 医薬分業の本質を全うする目的
クリニックや病院の近くにある門前薬局からの脱却を目指すものです。立地に依存した門前薬局から、患者さんごとのニーズに応じたかかりつけ薬局の薬剤師となり、医薬分業の本来の目的を果たせるようになるということを目指します。

(2)対物から対人へ 業務のシフトを図る目的
これまで薬剤師のメインの仕事であった医薬品管理、調剤、投薬などの対物業務から脱却し、高度な薬剤情報の提供など、専門的な業務やコミュニケーションを活かした業務へと移行することを目指します。

(3)地域における医療チームに参画する目的
地域包括システムにおいて、薬剤師以外の多職種や他の施設と連携することで、処方医への処方提案など薬剤師の専門性をより活かした業務への移行を目指します。

かかりつけ薬剤師に求められる役割とは?

かかりつけ薬剤師の機能に関しても国が規定しています。次の3つです。

(1)服薬情報の一元的・継続的把握
患者さんごとに専属の薬剤師がつくという意味合いがあります。患者さんの専属にならなければ、服薬情報の一元的・継続的把握は到底不可能です。

(2)24時間対応・在宅対応
平日の開局時間だけでなく、薬局が閉まっている夜間・休日も含めて24時間体制で担当患者さんの対応を行うことが求められています。患者さんによって生活習慣が異なるため、24時間フォローできる体制が大事になってきます。大変ではありますが、病院は24時間体制で救急体制を取っていることを考慮すると、医療の原点ともいえるでしょう。

(3)医療機関等との連携
他の医療機関と連携することで、薬剤師が医薬品だけでなく健康全般に関する情報などを患者さんに提供し、他の医療機関への受診勧奨をすることなどができると想定されています。その中で、多職種連携が肝になってくることは必然です。

かかりつけ薬剤師のメリットとは?

まず、薬剤師側のメリットとして、報酬増が見込めることはもちろん、特別な薬剤師になれることが挙げられます。これまでと違い、今後は薬剤師免許をただ持っているだけでは薬剤師として生き残っていくのは難しいと予想されています。

薬剤師の世界でも、いわゆる「ブランディング」が求められる時代です。かかりつけ薬剤師を経験することで、「自分はこういった患者さんの対応が得意です」「周辺の医療機関との連携なら任せてください」などと自信を持っていえることでしょう。また、これまで薬局薬剤師ではなかなか機会がなかった他の職種と話す機会が増えるので、知識の幅も広がります。

次に、患者さん側のメリットをみていきましょう。これまでは、夜に体調が悪くなった場合、救命救急科のある医療機関に駆け込むしかなかったでしょう。しかし、今後は、まずかかりつけ薬剤師に相談することで、常備薬の服用のみで済む可能性があります。その後医療機関に駆け込むことになったとしても、かかりつけ薬剤師からその医療機関に情報を連絡することで、円滑な処置が期待できます。1分1秒が勝負となる救命救急の現場において、円滑な処置で患者さんの命を救う可能性が上がることは、非常に大きいメリットであるといえます。

ぜひ、みなさんもかかりつけ薬剤師について調べてみてください。

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[参考]
患者のための薬局ビジョン ~「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へ~
(平成27年10月23日 厚生労働省)