10月8日は「運動器の10年・骨と関節の日」、10月10日は「転倒予防の日」という2つの記念日です。超高齢社会が進む中で、骨粗鬆症患者さんは増加の一途をたどっています。骨粗鬆症の薬に関しては、高血圧や糖尿病といった生活習慣病関連の薬や抗がん剤など違い、薬剤師でも勉強する機会が少ないかもしれません。骨の記念日にちなんで、今回は骨粗鬆症にまつわる最新の話題を2つご紹介します。
まずは破骨細胞による骨吸収をおさらい
ご存知のように、骨は日々壊されたり、また新たに作られたりを繰り返しています。骨が壊される過程で働くのが「破骨細胞」と呼ばれる細胞です。酸と酵素を使って、骨を溶かしながら破壊します。これを骨吸収と呼んでいますが、骨粗鬆症や関節リウマチなどの疾患においては、破骨細胞が異常に元気になって、骨吸収が進んでいると考えられています。そのため、破骨細胞の動きを抑制する薬…ビスホスホネート製剤や、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)などが治療薬として使えるわけです。
話題1|破骨細胞の働きをじっくりと観察できるようになった!
骨粗鬆症治療薬をうまく使うためには、破骨細胞の生体内での動きを、長時間正確に追うことが必要となります。最近、大阪大学の菊地和也教授率いる研究チームが、生体内で骨を壊すメカニズムを長時間観察する技術を開発し、科学雑誌の最高峰の「Nature」の姉妹紙である「Nature Chemical Biology」に論文を発表して話題になりました1)。
方法としては、骨の表面に結合し、かつ酸性条件で発光するようにした分子を作り、マウスに投与したところ、破骨細胞の移動の様子をはっきりと確認することに成功したというものです。さらに、骨粗鬆症のような病態マウスでは、健康なマウスに比べて破骨細胞の働きが上がっていることも確認できたといいます。
- マウスの生体そのまま(in vivo)の状態で、活性時の破骨細胞が骨を溶かす場所を可視化
- 移動する破骨細胞の局在変化と活性変化をリアルタイムに画像化し、骨を溶かす強さの定量化に成功
- 破骨細胞の活性情報が簡便かつ迅速に得られることから、患部の早期診断や新規治療薬の開発に期待
従来も似たような手法はありましたが、30分ほどしか観察することができなかったので、今回の方法は画期的と言えます。この研究ではマウスでしか成功していませんが、いずれこれをヒトに応用できれば、骨関連の薬の薬効を、投与後の好きな時間に、詳細に評価できるようになるのです。研究が進むことを期待したいところです。
1)Real-time intravital imaging of pH variation associated with osteoclast activity
Hiroki Maeda, Toshiyuki Kowada, et al.: Nature Chemical Biology 12, 579-585, 2016
http://www.nature.com/nchembio/journal/v12/n8/full/nchembio.2096.html
2)大阪大学免疫フロンティア研究センター「破骨細胞の機能を動物体内でリアルタイムに可視化 (菊地グループと石井グループがNature Chemical Biologyに発表)」2016/6/7より引用
http://www.ifrec.osaka-u.ac.jp/jpn/research/20160607-0924.htm
話題2|栄養学的視点で考えよう!骨粗鬆症予防法
「カルシウムは骨を強くするので、カルシウムをきちんと取ることが大事」。昔から言われてきた言葉です。骨粗鬆症の予防では、特に牛乳はその代表食品で、牛乳を毎日飲んで予防するということが行われてきました。しかし最近、骨粗鬆症を扱うクリニックなどの栄養指導でも、牛乳を推奨することが少なくなってきました。理由としては、牛乳が一概に悪いわけではないものの、乳製品は乳脂肪がたくさん含まれ、摂りすぎると動脈硬化などの生活習慣病を招く可能性があるからです。そして日本人に多い乳糖不耐症の人だと、下痢になって栄養分が全部流れてしまい、逆効果となります。また、牛乳にはカルシウムの吸収を妨げるリンが比較的多く含まれており、吸収が悪いということも予想されます。
そのため、最近の予防栄養学においては、できれば食品からカルシウムをとることが推奨されてきています。具体的には、
- がんもどき
- 生揚げ
- 高野豆腐
- ワカサギ
- ほっけ
- 乾燥ひじき
- 乾燥わかめ
- 切干大根
- 小松菜
などです。意外とこういった食品はカルシウムを多く含んでいます。
そのほかに、カルシウムの吸収を良くしたり、骨への沈着を促す働きをしたりするビタミンD、ビタミンK、マグネシウムも一緒に摂りたいものです。
ビタミンDを多く含むものとしては、
- 鮭
- 干ししいたけ
- 秋刀魚
など。
ビタミンKは
- 納豆
- ニラ
- 春菊
- ほうれん草
などが挙げられます。
また、マグネシウムは
- 油揚げ
- あさり
- 納豆
- がんもどき
- 生牡蠣
などに多く含まれています。
これらを見てみると、昔からの日本食で十分カルシウムは補えることがわかります。昔は骨粗鬆症が比較的少なかったのはこういった日本食をきちんと毎日食べていたからというのも一因かもしれませんね。温故知新とも言える最新の予防法をぜひ覚えておいて、患者さんへのアドバイスに役立ててください。