近年、飽食時代を迎えた我が国でも肥満になる方々が増えています。人類は古代より、飢餓に悩まされる時代の方が長かったため、遺伝子的に栄養素を貯めておこうというシステムが予め備わっています。このシステムにより、暴飲暴食をしてしまうと肥満となりやすいのです。肥満は生活習慣病へのリスクファクターの1つですので、改善した方がいいと考えられます。薬局にも、肥満に効く薬を求めて来られる患者さんも少なくないかと思います。今回は、肥満の際によく使われる漢方薬について勉強しましょう。

そもそも肥満とは??

誤解しがちなことですが、そもそも肥満とは、ただ単に体重が多いということではなく、体脂肪が過剰に体内にたまっている状態を言います。裏を返すと、体重が少々多いだけのいわゆるややぽっちゃりくらいなら、本当の意味での肥満には当てはまらない可能性もあります(ややぽっちゃりの方のほうが長寿の傾向にあるという研究報告もあるくらいです)。

医学的に肥満を定義するときには、まず体脂肪の量に着目することが基本となります。脂肪には、皮膚の下にある皮下脂肪と、内臓の周りにある内臓脂肪の2種類があります。一般的には、女性は皮下脂肪が多く、男性は内臓脂肪がつきやすいことがわかっています。これに付随して、肥満にも大きく分けて2つのタイプがあります。皮膚の下に脂肪がたまった「皮下脂肪型肥満(以下、皮下型)」と、内臓の周りに脂肪が蓄積された「内臓脂肪型肥満(以下、内蔵型)」です。

内臓脂肪の方が問題??

皮下脂肪は本来、寒さ対策や外部からのクッションの役割を持っていますが、過剰にあると膝や腰に負担がかかるようになります。過剰な皮下脂肪も問題ですが、内臓脂肪の過剰の方が医学的にはさらに注意が必要です。意外と知られていない事実ですが、皮下脂肪よりも内臓脂肪の方が落ちやすいという特徴があります。落ちやすいというと良いイメージがありますが、この特徴のため、内臓脂肪の方が代謝活性が高い、つまりエネルギーの出し入れがしやすく、過食によって増えやすくなっているのです。

過剰になった内臓脂肪から多くの脂肪が分解されて血中に入り、脂質異常症や脂肪肝などへとつながります。さらに脂肪細胞による分泌物によりインスリンの働きが悪くなったり、血圧上昇を引き起こしたりします。ウエスト径を測った際に、男性で85cm以上、女性で90cm以上だった場合には、内蔵型を疑ってみると良いと思います。

余談ではありますが、脂肪吸引によって脂肪を減らしてダイエットしようとしても、皮下脂肪を減らすだけで内臓脂肪にはほとんど影響しないため、生活習慣病の改善は期待できません。加えて、皮下脂肪の量を減らすと、その反動で内臓脂肪が増えてしまう可能性もあるので、専門家ときちんと相談した上で行うことが必要と考えられます。

肥満に効果が見込める漢方薬の特徴は??

肥満に効果が見込める漢方薬と言っても、漢方薬は各人の証に合わせて処方されることが原則なので、皮下型か内臓型かによって、また体質などによって使う漢方薬は当然異なってきます。

肥満のタイプは脂肪の種類や体質によって次の2つに大きく分類されます。
実証:体力があってがっしりしている堅太りタイプ(内蔵脂肪が多め)
虚証:体力があまりない水太りタイプ(皮下脂肪が多め)

実証の人で、腹部に脂肪がたまっているぽっこりお腹の人には防風通聖散が向いています。さらに、実証でもみぞおちあたりが張っているような圧迫感があって、肩こりや耳鳴りなどの症状がある方には大柴胡湯が良いでしょう。これは強い漢方薬のため、体力がかなりあってエネルギーが有り余っている運動選手などのダイエットに適しています。

虚証の人で疲れやすく色白で、むくみやすい虚証の人には、防已黄耆湯が向いています。女性の肥満は皮下型が多く、かつむくんでいるといった水太りタイプの方が男性と比較して多い傾向にあるので、女性の患者さんが相談に来た際には、むくみや体力などもヒアリングしてみると良いでしょう。虚証の人が防風通聖散を使うと下痢をしたりします。

肥満の漢方薬と言えば防風通聖散が有名で、すぐにこれを選んでしまいがちですが、個々の肥満の特徴を把握した上で選ぶことが大切だとわかりますね。そして一番大事なのは、食生活を含めた生活改善を勧めることです。これができてはじめて薬の効果が発揮できることもきちんと伝えましょう。ぜひ生活習慣病患者予備軍の増加を食い止められるような薬剤師を目指してください。