京都大学特別教授の本庶佑博士が2018年のノーベル医学・生理学賞を受賞し、列島を沸かせました。医学の研究に関わる筆者も奮起させられるとともに、新しいがん治療である免疫療法の発展に期待を寄せています。
この受賞により、今後免疫治療に関する医薬品開発が加速することが想像されます。薬の専門家である薬剤師にとっては、ノーベル賞の喜びに沸くだけでなく、受賞の理由やその限界などについては知っておくべきでしょう。免疫療法の話は以前にも本コラムで書いたことがありますので、免疫療法の詳細自体はこのコラムに譲ります。今回は本庶博士のこれまでの研究や経歴に注目し、研究者の端くれである筆者としての視点から、今回のノーベル医学・生理学賞についてまとめてみたいと思います。

本庶博士の経歴と研究の経緯とは?

本庶博士は京都大学医学部を卒業後、ずっと基礎研究に従事してきた研究者です。とは言うものの、医学部を卒業しているということは、もちろん臨床の現場もしっかりと見ていると言えるでしょう。これは2012年に同じくノーベル医学・生理学賞を受賞した京都大学の山中博士にも言えることです。医学部卒の基礎研究者、この経歴が受賞のポイントなのではと筆者は考えています。

今回の研究では、これまでのがんの三大療法(外科的治療、化学療法、放射線治療)に匹敵する効果を持つかもしれない、第四の療法「免疫療法」の可能性が示されたことが受賞の理由です。医学部出身で主に臨床に従事している研究者の場合は、三大療法を意識しすぎるあまり、この三大療法の域を超えた発想が出にくい傾向があります。また、理学部や農学部など医学部以外の出身者の場合、がん病態の患者さんをしっかりと見る機会がないので、そもそもがん治療へと応用するような研究は難しいという側面があります。がんの臨床病態のことを理解し、また、臨床応用を意識しつつ、実際に臨床で現在使われている発想から外れた新しい発想ができるのが医学部出身の基礎研究者の強みではないでしょうか。

この発想の柔軟さは薬剤師の皆さんも学ぶべき点があると思います。薬剤師の皆さんも普段の投薬の際に、使用している薬に関連している型にはまったことばかりを患者さんに聞いていませんか?自分の直感で気になることがあれば、患者さんが使用している薬とは関連なくても、疑ってみるという姿勢で臨むことも大切です。思わぬ患者さんの状態に気が付けることがあります。

まだまだ発展途上の免疫療法

免疫療法の薬であるオプジーボ®は、従来のがん治療の「細胞を殺す」という考え方ではなく、がんが免疫にかけているブレーキを外してやるという新しい考え方のもと、生まれました。従来の抗がん剤と違い、がんが小さくなった後、再発したり転移したりするということは少なく、効く人には長く聞き続けるという特徴があります。

発想の新規性とノーベル賞受賞とが相まって、賞賛の声が多いですが、本庶博士自身が認めているように、人によって効果に差があること、がん種によっては効きが悪かったりすること、さらに、免疫が強くなりすぎるなどという問題点もあります。これは個人の免疫細胞の状態に依存することに起因することがその一因と考えられています。免疫細胞の状態は当然十人十色なので、効き目がまだまだ万能の治療薬というわけではないのです。これを克服するような研究を今後は推進することが必要です。

また、別の免疫治療として、がん研究会有明の中村祐輔博士のがんペプチドワクチンも注目されつつあります。これについてはまた別の機会に紹介したいと思います。
一歩先行く薬剤師になるために、ぜひ免疫療法の進展に目を向けてみてください。