今年も薬剤師国家試験が終わりました。最新の薬剤師国家試験を分析することは、もうすでに薬剤師となっている方々にとっても、今後求められる薬剤師像を理解するために大変有益です。今年の国家試験の中で特に注目すべき点を見てみましょう。

全体としての傾向は?

実際に試験を受けた薬学生の間でも話題になっていることですが、全体としてみると難易度がかなり高いと感じます。問題の意味を理解し、総合的な知識を総動員して判断する能力が求められる問題が多いです。ただ薬や作用機序を暗記すれば解けるような試験ではもうないのです。

また「ポリファーマシー」や「かかりつけ薬局」など、臨床現場でも実際に話題になっている事柄に関しても幅広く問われています。全体からわかることは、今後の薬剤師はただ調剤をし、薬を渡すだけではなく、薬を渡した後のフォローの仕方を考えるなど対人業務に重点を置くべきである、ということです。今後、人工知能が医療に導入されるようになれば、人工知能がカバーできない判断力や推察力が求められることは明白なので、理にかなっていると思います。

さらに、元々理系の国家試験の中では一番幅広い知識が問われる試験でしたが、その幅がさらに広がっているように感じます。これまでも生涯勉強と言われてきましたが、仕事とは直接関係ないことであっても、なんでも勉強だと捉えて吸収していく姿勢が必要になると思います。

問題別の分析~必須問題~

何より顕著なのは、物理が難化している点です。有効数字に関する問題が多く出題されたり、グラフやイラストなどの実際の現象に関して、物理の基礎知識を応用して解かせたりする問題が多く出題されました。筆者の同僚で理学部物理学科を卒業した人に問題を実際に見せたところ、物理を専門としている人から見てもかなり本格的な問題だという印象で、すべての科学の根本である物理を重要視した出題になっていたようです。

臨床薬剤師を養成していくという時流ではありますが、やはり薬剤師は「身近な街の科学者」という意識を根本にもっているべき、ということだと考えられます。また、生物でES細胞の樹立の問題が出されていることから、再生医療に今後薬剤師も関与していくべきという動向が見えます。

衛生では、感染症に関する問題が出されました。昨今の新型コロナウイルスでも分かるように感染症というのは簡単に感染が拡大します。今後はさらに、今回のような非常事態に適切に対応できる薬剤師を目指すべきでしょう。

問題別の分析~理論問題~

必須問題と同様に物理がかなり難しかったですが、他の科目も例年通り難しいものばかりです。化学で糖尿病治療薬について、続いて生物でグルコースの輸送について、そして衛生で糖質の消化・吸収についてと関連した問題が連続で出題されました。

生活習慣病の中でも特に重要な疾患として、今後も糖尿病が上位に位置し続けることが予想され、薬剤師の関与もさらに深まっていくと思われます。糖尿病の患者さんは、将来の発がん率の上昇や新型コロナウイルスの感染率の上昇が見られることからも、治療の重要性が理解できると思います。

また研究で頻繁に使われるウエスタンブロット法などの実験考察問題も例年通りに出題されました。分析手法の理解もこれまで以上に必要となってくるでしょう。

問題別の分析~実践問題~

大きな特徴としては、1つの問題の中に複数の疾患が登場し、その中から必要なものだけをピックアップして解決策を判断するという問題が多く出題された点です。これまで以上に読解力が求められるようになってきたことがわかります。

臨床の現場でも、新しい治療薬の数がどんどん増えてこともあり、多くの疾患を同時に治療している患者さんや、がん患者さんで、副作用対策として多くの緩和ケアの薬を服用している患者さんが増えてきました。読解力と判断力が求められるようになってきたのは当然のことと言えます。

そして、アンチドーピングや認知症の画像診断、さらにはノーベル賞受賞で話題となったオプジーボ®やオリンピック・パラリンピックに関する問題など、最新の時事問題も出されました。最新のトレンドは薬剤師としても常にこれからも把握していたいものです。

今回の国家試験に直接関係ありませんが、昨今、新型コロナウイルス感染拡大にまつわる情報が、多数発信されています。しかし、情報のなかにはエビデンスがないものもあります。こういった時に、一番身近な科学者として、正しい知識と正しい判断力をもって状況を分析し、きちんとした対処や正しい知識の啓蒙活動をすることで、薬剤師の存在感も増すと思います。これまで学んだ知識や経験を社会に還元できるように頑張りましょう。

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