医学・薬学が進歩したといわれている現代においても、エイズを代表として、根治できない病気はまだまだ多いです。
次世代の医薬品として注目を集めている核酸医薬はそんなエイズをも根治させるポテンシャルを秘めていると言われています。
まだまだ市場でのシェアは微々たるものではありますが、加齢黄斑変性症治療薬「Macugen(R)」など一部の疾患に実際商品化もされているこの医薬品について紹介します。
これまでの医薬品と何が違う?!
これまでの医薬品を大まかに分類すると、3つにわけられると考えられています。
1つ目は低分子医薬。
例えば、アンジオテンシンがアンジオテンシン受容体に結合することで血圧上昇作用が発揮されますが、ここを別の物質を結合させ阻害してしまえば、アンジオテンシン自体は結合できなくなります。
結果として、血圧上昇作用が起こらなくなるということは、薬理学で習ったかと思います。
この阻害物質のことを「アンジオテンシン受容体拮抗薬」ということも周知のことですが、まさにこれが低分子医薬です。
この薬はたくさんの化合物を合成し、受容体に結合するものを探すという作業を繰り返します。
2つ目は抗体医薬。
例えば、がん細胞だけに特異的にあるタンパク質の抗体を用意し、体内に投与すると、その抗体ががん細胞だけを攻撃してくれます。
これが抗体医薬です。
これを作るには実験で使うレベルの無菌動物が必要となります。
近年の技術進歩で改善されてきたものの、これらの二つの医薬品は作製するのに結構な時間とお金がかかるという欠点があります。
そうした中、3つ目として核酸医薬が登場しました。
生物学で習うように、核酸とはDNAやRNAです。
例えば、がん細胞で、DNAからmRNAを経て好ましくないタンパク質が作られて、そのタンパク質ががんの悪化や転移に関わるという状態があるとします。
核酸医薬はmRNAと結合し、それを分解したり阻害したりすることで、タンパク質が作られなくなり、結果としてがんの悪化や転移を抑えられます。
低分子医薬と抗体医薬はDNAから作られる最終産物であるタンパク質を標的にしていましたが、核酸医薬はその多くがmRNAを標的としてタンパク質自体を作られなくするということが特徴です。
mRNAに小さなRNAが結合することでmRNAを分解するという現象には、「RNA干渉」という名前がつけられています。
これを発見した研究者が2006年にノーベル医学生理学賞を取ったことで、核酸医薬の可能性の認知が上がったとも言えます。
エイズウイルスも殺せる可能性を秘めている!
エイズウイルスはDNAをもたないRNAウイルスです。
RNAウイルスは、宿主の生体内で自らのRNAからDNAを作り出し、これを宿主のDNAに組み込んで、ウイルス自身を無限に作り出します。
既存の医薬品はDNAやタンパク質を標的にしたものが多いので、感染後のウイルスの増殖や拡散は防げても、RNAからなるウイルス自体を倒す根治療法は不可能でした。
核酸医薬はこのRNAを壊す事ができるので、エイズの根治治療に使えるということが期待されています。
増殖する元になったウイルスの他に、既に増殖したウイルスも破壊するので、対症療法としても使えます。
ただ、欠点として、核酸医薬の大部分が不安定で分解しやすいRNAなので、生体内での運搬が難しいことが上げられます。
現在、これらを改善する研究が世界各地で急速に進行しています。
近い将来、核酸医薬が市場でのシェアを拡大すると予想されており、世界中のバイオベンチャーも製薬企業とタッグを組み、核酸医薬の開発研究に力を入れ始めています。
今話題になっているエボラウイルス自体を破壊する薬としても核酸医薬が期待されています。
将来、薬剤師としても絶対関わることになると考えられますので是非覚えておいてください。