最近ご当地キャラやご当地グルメなどがブームになっています。
地方の名産には何か心魅かれるものがあります。
全国で共通していると考えがちな医薬品にも、もちろんご当地ものが結構あります。
一部地域ではたくさん売れているのに、他の地域では販売すらもしていないといったものです。
今回は、薬剤師でありながら、有名クイズ番組で活躍し、伝説のカルト王と呼ばれた加藤三千尋さんの著書「薬の裏話」を参考にして、紹介したいと思います。
名薬が多いご当地医薬品!
関東で有名な健胃薬としては「百草(ひゃくそう)」ですが、関西では「陀羅尼助(だらにすけ)」です。
関東と関西を比べただけでも違いがあるのが面白いところです。
ちなみに、全国規模で売っている「百草丸」は粉状の「百草」に他の生薬も加えて、粒状にしたものです。
まったくの別物です。
「陀羅尼助丸」も、板状の「陀羅尼助」を粒状にしたもので、こちらの方が全国的には主流になっており、作用も「陀羅尼助」は下痢止めなのに対し、「陀羅尼助丸」は胃腸薬という少し違う薬効です。
ある意味別物といえます。
また、九州ではTVCMも流れており、知らない人がいないであろう風邪薬「後藤散(ごとうさん)」は九州を離れるとほとんど流通しておらず、知名度も皆無です。
九州から東京に旅行で来た人が東京中を探しまわって結局は見つからなかった、というくらいです。
このように各地方では名薬の名をほしいままにしていても、地方が変われば無名の薬になってしまう例はたくさんあります。
地方毎にざっと見てみますと、長崎の咳止め薬「ヘデクパウダー」、熊本の貼り薬「速治膏(そくぢこう)」、水戸の強心剤「司命丸(しめいがん)」、東京・上野の繁華街で今でも売られている健胃薬「守田宝舟(もりたほうたん)」などです。
ご当地医薬品にも危機が!?
近年の核家族化の拡大や大手チェーンドラッグストアの台頭により、家族経営の地域密着型薬局が減ってきています。
こういった状況ではご当地医薬品の小さな製造メーカーが、全国展開している大きなメーカーよりも不利になってきて、ご当地医薬品製造の危機になっているらしいです。
また、医薬品製造規格に統計学的手法を導入することが義務づけされたことで、経験によるさじ加減が重要な伝承民間薬にはなじまないことも一つの理由だそうです。
今後ご当地医薬品がなくなってしまうかもしれないと想像すると、少し寂しい気がしますね。
ご当地医薬品に明るい話題も
明るい話題もあります。
宮城県の一部地域のみで有名であった婦人薬「塩竈蛮紅華湯(しおがまさふらんとう)」が、大手メーカーの大鵬薬品によって商品名「塩釜さふらん湯」として全国展開されたのです。
また別の方法で活路を見いだした例もあります。規制が厳しくなる中、滋養強壮舐薬「大木五臓圓(おおきごぞうえん)」の製造メーカーである大木製薬は、医薬品として規制を超えられそうにないと判断しました。
そして一工夫しました。
食品としても使える成分を使って、元の処方に近い製品を作ればそれは食品として流通できると考えたのです。
その結果生まれたのが「健養五臓圓(けんようごぞうえん)」です。
食品なので、滋養強壮の効果は標榜できませんが、類似のものが手に入るのですから愛用者には福音のはずです。
故郷を離れて長い時間がたっても、ご当地医薬品を一口飲めば故郷を思い出せる。
また、その故郷の患者さんや医療者と心を開ける突破口になりうる。
そんなご当地医薬品はずっと廃れないで欲しいと感じますね。