2024年4月から厚生労働省管轄のもと、化学物質の管理が大きく変更されます。薬剤師は医薬品の専門家であると同時に、化学物質の専門家でもあります。どのような役割を果たせるのでしょうか。今回はこれについて考えてみましょう。
化学物質の管理のこれまでとは?
化学物質の中には危険なものがたくさんあり、これまでにも多くの事故や公害などが起きています。もちろん国も化学物質の中で危険性が高いものに関しては、労働安全衛生法・特化則・有機則などの法律や規則で製造や使用に関して厳しく規制をしてきました。
しかし、厚生労働省だけでなく総務省や経済産業省などほかの省庁もそれぞれに関連した化学物質規制ルールを設けており、省庁や法令が多岐にわたるため管理が複雑化してしまいました。その結果、現場で運用した際に結構な労力がかかる事例も少なくありませんでした。
労働災害の思わぬ事実が見つかった!?
実はこれまで起きた化学物質関連の労働災害のほとんどは厳しく規制されてこなかった物質によるものだということが分かってきました。規制されていない物質はとても多く数万物質にものぼりますが、現実的にこの数万物質を全て規制するのは不可能です。
例えばコロナ禍の影響もあり、消毒用エタノールの需要が高まりました。消毒用エタノールは70%程度の高濃度エタノールを含んでいます。エタノールは可燃性であり、健康面からも中枢神経などへの影響がある化学物質です。エタノールの使用が増え、エタノール関連の労働災害なども増えました。このような背景からも化学物質管理が厳しくなるのは必然です。
具体的にはどのような管理になるのか?
これまでは法令に従って管理していれば良かったのですが、今後は見直されます。具体的には、「危険性・有害性が確認された全ての物質に対して、国が定める管理基準の達成を求め、達成のための手段は設定しない方式に大きく転換する」という変更点が明示されています。ポイントは「全ての物質」、「手段を設定しない方式」です。つまり、今後は「少しでも危険な化学物質の全てにおいて、自律的管理を行うこと」が求められます。これまでとは違い、国は管理基準だけを設定し、具体的な管理方法は現場が決めるという方式になりました。さらに専門家を現場にきちんと配置した上で管理するようにと決められています。具体的には、事業場内に、化学物質全般に関して専門的な知識を有する「化学物質管理者」と、化学物質を扱う際に身を守る保護具に関して専門的な知識を有する「保護具着用管理責任者」を、各々選任しなければならないとしています。その上で、もし問題がある場合には外部専門家にも意見を求めることとされています。
製造現場の規定は使用現場の規定よりも厳しくなっており、化学物質を製造しているか・使用しているかに関係なく、各事業所において化学物質専門家を配置する必要があります。
また、自分の事業所が化学物質を扱っていないと思っている場合もあるのでスタートからかなり大変なのが分かります。例えば、機械メーカーなので化学物質は扱っていないと思っていても、実際は機械などを洗浄する際に有機溶剤を使っていることがあります。有機溶剤を使っているということは、化学物質管理者を置かないといけないことになります。
薬剤師がどのように関わっていけるのか?
今後も変更は予想されますが、化学物質専門家や保護具着用管理責任者の選任要件に薬剤師とは規定されていません。ただし、ほかの規定されている要件は薬剤師であれば無試験などで取得できるものばかりで、暗に薬剤師に期待していることが感じられます。実際に化学物質管理に関する求人で薬剤師を求めているものも多くあります。事業場としても薬剤師を配置することで医薬品管理も可能になるため薬剤師の配置を望むこともあるでしょう。現場の声として、化学物質管理ができる人材がいない、やり方が分からないという意見も多いのが現状です。この問題を薬剤師が理解することが重要です。化学物質管理に関わる薬剤師が一人でも多く増えることを願います。
詳しくは厚生労働省の資料をご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/000884780.pdf
https://jsite.mhlw.go.jp/miyagi-roudoukyoku/content/contents/001277415.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/000771819.pdf
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