京都大学の山中先生が作り出したiPS細胞がノーベル賞を取ってから、再生医療の分野は日本がその中心となって盛り上がりを見せています。
かつてiPS細胞はがん化の問題があり、完全なものではありませんでした。しかし、新しい作製方法も登場して改善された結果、ついに実際の患者さんに使われるまでになりました。今後、医療業界ではこの再生医療がこれまで以上に広がってきて、薬剤師もこれに関わる可能性が高いと予想されます。今回は再生医療で今後薬剤師がどういったことに関わる可能性があるのか一緒にみてみましょう。
iPS細胞のすごさとは??
生体では、精子と卵子が結合し受精卵ができます。受精卵はいわゆる万能細胞と呼ばれるものですが、この受精卵が細胞分裂を繰り返すと、初期胚と呼ばれる状態になります。初期胚の段階で、既にどこの部分が何の臓器になるかは決まっています。例えば、皮膚の組織に傷を負い、回復してきた際に、そこに神経ができることはなく再び皮膚ができてきます。これはまさに皮膚の細胞は皮膚にしかならないと決まっているからです。
一見当たり前のことですが、これは実は生命の重要な機構なのです。この細胞に遺伝子組み換えなどの特別な処理を施し、受精卵のような状態まで戻したものがiPS細胞です。受精卵の細胞のようにあらゆる臓器になる万能性を持ちます。また、iPS細胞以前に話題になったES細胞は赤ちゃんの基となる受精卵を破壊して作りますが、iPS細胞はそうではないので倫理的な問題もありません。iPS細胞の作製は、生命科学分野での「DNAの二重らせん構造の発見以来の革命」とも評されています。
iPS細胞を使えば、どうやって受精卵から各種臓器になるのか、またその過程でどうやって様々な病気が発生してくるのかのメカニズムの詳細を、時間経過とともに調べることが人工的に可能になりました。これまでは病気になってからの臓器を使って行う研究がメインだったので、病気を消すという治療の研究は行いやすくても、なかなかその原因を探るようなメカニズムの同定までは困難でした。しかし、iPS細胞を使えばメカニズムの同定も容易に行え、予防医学の研究もしやすくなると考えられます。
薬剤師であれば知っておくべきiPS細胞の活用法とは??
iPS細胞活用の利点としてまず知っておくべきこととしては、薬の有効性や安全性をこれまで以上に正確に確認できることです。新薬開発は動物実験で確認した後に人で行いますが、臓器個別での確認は困難でした。動物実験では容易でも、生きている人の心臓や脳を丸ごと取ってきて行うことが不可能だからです。
ヒトのiPS細胞を使って欲しい臓器を人工的に作ることで、各臓器別の薬の影響を調べられます。しかも何度でも行うことが可能です。さらに、薬物動態や全身作用を調べる試験ではなく、ただ各臓器の影響をみるだけなら、動物のiPS細胞も用意してしまえば動物個体を解剖する必要もなく、動物愛護の観点からも有益です。
そしてiPS細胞は難病の治療薬を見つけることも容易にしてくれます。これまで難病治療の研究が進みにくかった背景には、前述したように生きている患者さんから臓器を丸ごととってくることが不可能なことに加えて、患者数が少ないことあげられました。
難病の患者さんからiPS細胞を作製すると、この患者さんの遺伝的形質をそのままもったiPS細胞が出来上がります。これを基に臓器を作製したら、その病気と同じ性質を持つ臓器が作られる可能性が高くなります。この異常な臓器に薬の候補となる物質を投与して病気が治り、好ましくない作用が出なかったものが発見できれば、難病の新たな治療薬候補になりうるということがわかります。
薬局や病院に来た患者さんの中には、難病でもう治療法がないと悲観されている方もいらっしゃいます。服薬指導の際にこういったお話しができると、信頼を得やすくなるのではないでしょうか。