世間を賑わせている薬に関する様々な事件。その中でも筆者を含め薬剤師の皆さんが特に衝撃を受けたのは、C型肝炎治療薬「ハーボニー」の偽造品流通事件ではないでしょうか?今回はこの事件を振り返ることで、薬局での監査の大切さについて振り返ってみることにしましょう。

これまでも偽造品のニュースはあった?!

個人輸入による偽造品のニュースは、これまで何度か耳にしたことはあると思います。毎年、税関でかなりの偽造医薬品が輸入差止となっているようです。特にED関連の薬に多く、個人輸入で手に入れようとしたバイアグラが偽造品だった、ということが現にあります。

しかしながら、今回のハーボニー偽造品の事件がこれまでと異なるのは、きちんとした医療機関で処方され、きちんとした薬局で調剤された医薬品であったという点です。日本は医薬品に関して、法律の下、医薬品卸業者が独自の流通網を厳密に管理しています。そのため、医療機関や患者さんなどが意図的に行わない限りは、偽造品が混入する余地がないと考えられていました。今回の偽造品流通事件は、医療機関、薬局、そして患者さんなどが意図的に行ったわけではなく、自然な流れで起こったことなので、とても衝撃が強い事件でした。

今回の事件解決や原因究明に関しては警察組織や厚労省が行うことなので、我々薬剤師には出番がないと考えられます。しかし、こういった事件を未然に防ぐためには、薬剤師の「監査」が重要になるのではないでしょうか。確かに、今回の事件のように容器やラベルまで本物で中身だけが偽物といったときには、監査をしても意味がないこともあります。ですが、調剤ミスを防ぐためにはもちろん、今後どういった形で目の前に現れるかわからない偽造品対策としても、薬剤師としてこれまで以上にしっかりと監査を行いたいものです。

では、監査にコツはあるのでしょうか?

監査に結びつくちょっとしたコツとは??

コツとして、3つご紹介したいと思います。

1つ目としては、医薬品によって卸業者を変えて、いくつかの業者さんと繋がっておくことです。そうすることでいろいろな情報が入ってきやすくなりますし、流通網の比較ができるので、その違いも明確になります。もし問題がありそうな流通網があった場合には、表に出てきやすくなります。

2つ目としては、いつも飲んでいる薬を投薬する時に、患者さんにも一緒に確認してもらうことです。何より薬を飲む当事者である患者さんは、第三者の薬剤師よりも当然処方されている薬に関して敏感です。その場で一緒に確認することで、少しの違和感があれば患者さん自身が指摘してくれます。現に投薬時に患者さんから指摘を受けて、誤調剤を免れたという経験をされている方も少なくないでしょう。投薬時に患者さんから指摘を受けるなんて、そんなことは恥だと考える方もいるとは思います。しかし、患者さんが家に帰ってから、患者さんから薬の間違いについてクレームの電話がかかってきたり、極端な話ですが、患者さんが間違って飲んで健康を害してしまったりすることのほうが、よっぽど恥だと思います。

3つ目としては、自分の薬局の在庫薬くらいはすべて把握しておくことです。把握というのは在庫数とか名前という意味ではなく、その剤形や味や特徴といったもののことです。もちろんロキソニンのような有名どころは、「ピンクで真ん中に切れ目がある円形の薬」とすぐに言えますが、それ以外の薬も在庫している以上は知っておくべきでしょう。ですので、薬局のスタッフ全員で一度薬の実物を見たり、触ったり、可能であれば味見をしてみたりすることをお勧めします。また盲点ではないかと思いますが、ボトルの医薬品の場合には投薬時に振ってみるとよいです。もし剤形や数が違っていたら、振ったときの手の感覚や音が違うので見つけやすいです。投薬時に患者さんと一緒に振って確認するとなお良いと思います。

薬剤師としてキャリアをつむほど、案外監査が一連の業務のひとつという位置づけになってしまいがちです。ぜひ自分でも監査について今一度その意義を考え直してみてください。