日本は「がん大国」と言っても過言でないほど年々がん患者が増えています。生涯で2人に1人ががんに罹患し、3人に1人ががんで亡くなっています。そのため、抗がん剤の処方せんを受け取る薬剤師も増えてきたかもしれません。薬剤師はがん患者さんとどのようなコミュニケーションをとるべきでしょうか。一緒に考えてみましょう。

がん患者さんへの対応は自ら学ぼう!

 以前は基本的に、がんは病院で治療を受け、病院で最期を迎えていました。しかし、患者さんの人権が重要視される時代の台頭で、治療の進歩、抗がん剤の種類の多様化、緩和ケアや在宅医療の普及などが促進されていきました。つまり、病院に代わり薬局が、がん患者さんの日々のケアを行う場所へと少しずつ変わってきています
 がんになっても助かる可能性は以前より高まっています。とはいえ、未だにがん患者さんが抱える心境はとても複雑なものがあります。ときには薬剤師の些細な一言が、患者さんを傷つけてしまうことも。薬学部の講義ではなかなかがん患者さんへの応対を習う機会がなく、また病院を経験せず薬局に就職される薬剤師さんが多いかと思います。そのためがん患者さんへの応対は、きちんと自身で身に着けることが必要になってきます。

真実をすべて伝えることは正義なのか?!

 では、実際の患者さんへの服薬指導について考えてみたいと思います。薬剤師として正しい適切な情報を患者さんにお伝えし、抗がん剤治療への不安を可能な限り払拭してあげることが重要です。
 まず、抗がん剤の場合は告知がなされているかで、言葉の選び方が変わってくるかと思います。昔はがん患者さんへの告知は消極的で、告知されたかを患者さんに気付かれないように確認し、状況に合わせた服薬指導をすることが求められていました。現在では、基本的にがんの告知が行われており、抗がん剤という単語やその説明も行えるようになりました。ただ、告知を受けていない患者さんも稀にいるため、必要に応じて医師や患者さんの家族と、患者さんへの伝え方を相談するようにしましょう。
 私も病棟でがん患者さんへの服薬指導を行っていますが、薬剤師には抗がん剤治療を進めていく上での副作用などを説明する役割があります。その際にいくら真実を伝えるといっても、すべての情報をやみくもに伝えると、患者さんが必要以上に不安を抱えてしまいます。治療の拒否にもつながりかねません。かと言って伝えなさ過ぎても不信感を抱かれます。特に、薬局に抗がん剤の処方箋を患者さんが持ってきたときには、患者さんの体調などが完全には把握できず、病院からの情報が少なくて困ることでしょう。そのようなときには、患者さんに心を開いてもらい、自分から話をしていただくことが重要です。そのためには、がんを乗り越えた身内や友人などのエピソードを、薬剤師から患者さんにお話するとよいでしょう。すると患者さん側も自身の状態を語ってくれやすくなるのでお勧めです。もちろん、患者さんから聞いた後に、病院の方にもその情報を確認しておくとよりよい治療を進めることができるでしょう。

末期がん患者さんと接する際には

 余命を告げられたときの心境は計り知れません。がん患者さんの中でも、末期がんの方は特に配慮が必要です。また、末期がんの患者さんは痛みや不安を訴える方が多く、それらの症状を抑える薬を飲んでいることが多々あります。モルヒネなどの医療用麻薬を使っていることに不安を感じることが多いようです。がんの進行に大きな不安を抱えているのに、その上症状を緩和する薬の影響まで心配していては、さぞ辛いことでしょう。
 薬剤師としてやるべきことは、薬に対する不安を少しでも拭ってあげることです。服薬指導の際には、「がん」という直接的な表現は極力使用しないように薬の説明をすると、安心感が増します。具体的には「今服用している薬は悪い細胞を殺して排除するお薬です」、「自身の免疫を強化する助けとなるお薬です」、「体力を強化するお薬です」 、といった説明を丁寧に行いましょう。実際にこれまで使ってきた患者さんの症例を上げながら説明することが必要なので、日々がん患者対応関連の論文にも目を通しておきたいものです。