外科手術の際には欠かせないものとなっている吸入麻酔薬
色々な吸入麻酔薬が存在しますが、最初の発見は笑気ガスです。
外科手術自体の歴史は古いですが、麻酔の登場前後でどのような変遷があったのでしょうか。
今回はこれを紹介します。

麻酔の無かった時代の外科手術はどうだったのか!?

17世紀頃の西洋の絵を見てみるとその現状を知る事ができます。
そこには、脚を切断された患者と、ノコギリを持った外科医(当時は床屋でした)が書かれている横に、ボクサーのようなグラブをはめた強そうな男性が書かれています。
お察しの通り、手術の前に患者を殴って気絶させた後に、床屋が手術を行った図です。

この頃は、パンチによる強打や、天井から患者を逆落としにして気絶させてから手術を行っていたのです。
それから年月を経て、この一見野蛮な床屋外科手術に置き換わって、近代的外科手術に置き換わっていきました。
もちろん無麻酔で行っていましたので、痛みをどうやって我慢するかがこの頃の課題でした。

この頃の病院の手術部屋は最上階に配置されていたのも、手術中の患者の悲鳴が病院全体に響かないようにとの配慮からだったそうです。
その後アルコールやモルヒネを投与して手術を行うようにはなりましたが、効果が弱かったので、手術をいかに素早く行うかが当時の外科医の中の重要テーマだったそうです。

そして登場した初めての吸入麻酔薬!

1772年、イギリスのプリーストリーが発見した亜酸化窒素(N2O)は、これを吸入すると顔の表情が笑っているように見えるので、一般的には「笑気ガス」と呼ばれています。
その後、イギリスのデーヴィーがこの笑気ガスの研究中にたまたま自身で吸引することで、麻酔効果(正確には酩酊効果)を発見しました。
吸引した後の表情から笑気ガスと名付けたのも彼でした。

その後色々な人に吸入してもらい麻酔効果を検討していき、論文に発表しました。
しかし彼はこの実用化研究から手を引かざるをえなくなりました。
もし彼が笑気ガスの麻酔効果の実用化研究をつづけていたならば、人類はもっと早くに手術の痛みから解放されたとも考えられています。
当時は産業革命全盛期であり、工業的な実用化研究には助成金がたくさん集まる反面、麻酔効果の研究にはあまりお金が集まらなかったのです。

その後笑気ガスは新大陸に持ち込まれたのですが、娯楽が少ない土地だったこともあり、ここでは麻酔薬ではなく、酩酊を求める娯楽用薬品として使われ、笑気ガスパーティも頻繁に開催されていました。

そして、デーヴィーが笑気ガスの麻酔効果を発見してから40年くらい経った頃、歯科医のウェルズがたまたまこの笑気パーティに参加した際に、膝から出血した参加者が笑気ガスを吸っていて全く痛くないという言葉に着目し、抜歯手術で麻酔効果を試みようと考えました。

この実験自体は失敗に終わったのですが、その後、ウェルズに影響を受けた歯科医のモートンと医師兼化学者のジャクソンといった者達にその意志は引き継がれ、笑気ガスの代わりにエーテルを麻酔に使うことで麻酔実験は成功しました。その後色々な人達の手によってクロロホルム、シクロプロパンなどの麻酔効果が証明されていき、現在に至っています。

日本で麻酔の話と言えば、1804年の華岡青洲の「通仙散」による乳がん手術の話が有名ですが、是非今回の話も一緒に覚えておいてください。