2020年を迎え、いよいよ東京オリンピックまであと半年となりました。世界中から多くの人が押し寄せ、大いに盛り上がることが予想されます。他方、輸入感染症が日本へ入ってきてしまう確率も上がります。元々日本にあまり存在しない感染症が入ってくる可能性もあり、注意が必要です。今回は東京オリンピックに向けて、輸入感染症について学んでみましょう。

そもそも輸入感染症とは

一応の定義としては、日本には本来常在しない、または、過去に発生・流行したが、現在はほとんど問題になっていない、他国から持ち込まれたウイルス・細菌などで発症する感染症のことです。海外旅行から帰国した後に発症することが多く、旅行者感染症とも呼ばれています。

旅行者からの感染以上に問題になるのは、オリンピックなど特定の期間・場所に大量の人が集まる場合(マス・ギャザリング)です。このような場合には、通常では起こり得ないようなトラブルがいくつも起こる可能性があり、感染症がその中でも特に懸念されています。

色々な考え方の人が一同に会するマス・ギャザリングの時には、情報不足やデマ拡散が起こりやすい状況です。さらに微生物は肉眼では見えないため、混乱が混乱を呼び、感染症が拡がりやすい状況に容易に陥りやすいと考えられるでしょう。医療人であれば、正しい知識を持っている立場として、こうした状況にもきちんと臨みたいものです。

具体的な輸入感染症の種類とは?

一口に輸入感染症といってももちろん色々なものが存在します。分け方は様々ですが、 (1)感染性が高い感染症、(2)日本では稀な感染症、(3)マス・ギャザリングで特に注意すべき感染症、(4)危機管理対策が必要な感染症の4つに分類する考え方があります。

(1)感染性が高い感染症

…日本国内でも季節によって、または不定期に感染拡大が問題になるもの
例)結核、麻疹、水痘、季節性インフルエンザ

(2)日本では稀な感染症

…日本では稀であるものの、一定数の感染者数が報告されているもの
例)マラリア、デング熱、腸チフス

(3)マス・ギャザリングで特に注意すべき感染症

…マス・ギャザリングでよく問題になるもので、飛沫感染で拡がり、悪化した際の死亡率が高いもの
例)髄膜炎菌感染症

(4)危機管理対策が必要な感染症

…日本における報告例はまず無いものの、世界的には問題になっている、かつ治療が非常に困難になるもの
例)中東呼吸器症候群(MERS)、エボラ出血熱、新型インフルエンザ

それぞれの輸入感染症にどう対策する?

各々の対処法を考えてみましょう。

(1)感染性が高い感染症

日本では時期的な感染症の扱いだとしても、世界的に見ると通年で流行しているものもあるので注意が必要になります。例えばインフルエンザの流行は日本では冬がメインなので、ワクチンや医薬品の備蓄がその時期に偏りがちになります。オリンピックは夏なので、流行時の対処が遅れてしまうことがあります。こういった世界的なイベントがある時には、例えば薬局の抗インフルエンザ薬の備蓄を通常よりも多くしておくなど、対処できることはしておくと良いと思います。

(2) 日本では稀な感染症

共通して発熱が見られることが多いものの、他の症状がバラバラなため、症状だけで判断をつけるのは難しいです。しかし、その人がどこの国から来たのか・潜伏期間・暴露状況などから見立てることはできます。感染の恐れがある方が薬局に相談に来た際には、この見立てを行ってから、罹患の可能性を説明し、受診をすすめましょう。その際、病院・クリニックにも前もって連絡しておくと良いでしょう。

(3)マス・ギャザリングで特に注意すべき感染症

問診や診察だけでは正しい診断が難しく、診断のために血液培養などの検査が併用されます。確定診断後に抗菌剤の投与が開始されますが、他の疾患以上にきちんと継続することが求められます。もし、こういった患者さんに関わることがあれば、薬剤師として服薬管理をきちんとするようにしましょう。

(4)危機管理対策が必要な感染症

日本ではまず見ることはないため、対処法に注意が必要です。まず世界的な流行情報を調べ、疾患が流行している地域からの渡航か確認します。その上で罹患が疑われる場合には、保健所に連絡して相談し、適切な医療期間へと移送する必要があります。対策用のガイドラインもあるのでそれを通読しておくことも良いでしょう。

オリンピックの現場でも薬剤師はもちろん活躍できますが、そうでなくても、裏方として、感染症防止のために準備することもできます。オリンピックが終わった後も、さらに国際化が進む日本では、今後も輸入感染症が問題になることが予想されます。求められる薬剤師になるべく「輸入感染症拡大防止の関所」を目指してみてください。

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