最近、テレビや雑誌で薬やサプリメントについての特集が組まれることが多くなってきたように思います。このような特集の中にはエビデンスに乏しいものや、一部の専門家の偏見に基づく記事なども少なくないのが現実です。またこういった特集や記事がやっかいなのは、強烈なインパクトを残してしまうような内容に編集されていることです。つい最近でも、ある番組で、睡眠薬のベルソムラを糖尿病の患者さんが服薬すると血糖値がより下がるといった、行き過ぎた表現で報道がなされました。この事例では問い合わせや相談が寄せられるなど社会現象となり、番組側が謝罪することになりました。
今回のように、メディアの報道を受けて薬局に問い合わせや相談が寄せられた場合、薬剤師は、どういった対応をしたらいいのでしょうか?一緒に考えてみましょう。
まずはエビデンスを探す訓練を!!
こういったときの対処法として、医師の対応方法が参考になります。
医師は、このような報道がなされた後に、すぐさましっかりとしたエビデンスを探します。エビデンスというのは書籍で探すのが基本ですが、新しいものを探そうとしたらやはり論文が最適です。まずは国内の関連した論文を探しましょう。例えば、今回のような糖尿病の最新情報が欲しければ、糖尿病の専門雑誌などをできれば1年分、少なくとも3ヵ月分はあさってみましょう。
薬に関しては、国外での症例が存在する場合もありますので、海外の関連雑誌にも目を向けられるようになると、なお良いです。ここでのポイントはただ漠然と論文を読んでいくのではなく、同じ意見のものと、違う意見のものとを両方しっかりと読んで比較していくことです。そしてこれらの論文の内容を1枚の紙にまとめて、患者さんにいつでも提示しておけるようにします。
論文をきちんと出すことで、患者さんへの説得力も増します。なぜならば、テレビや週刊誌よりも論文のほうが一般的な認識として信用があるからです。ここまでやると患者さんも納得してくれる方が多いです。今後はまさしくこういった力が強く要求されます。
統計学的センスも大事?!
もう1つ大事なのが、統計学的センスを磨いておくことです。今回のベルソムラの事例では薬剤師の中でもあわててしまった方も少なからずいたかと思います。こういった報道ではグラフや表などが提示されており、エビデンスがしっかりしているように思い込んでしまうことが多いのです。これがグラフや表のもつ説得力です。
グラフや表で示されたデータは統計を介して得られているものですので、裏を返すと統計を理解していれば、これらのデータがどこまで信頼できるのかが推測できるようになります。常日頃から統計の勉強も少しずつして、統計に対するセンスを身につけておきましょう。例えば、ある疾患の患者さんに対する薬の効果を示したデータがあるとします。その際にまず確認するべきは、調べた患者数(n数)です。患者数がもともと少ないといった、よほど希少な疾患でなければ、100人は超えていないと少し心もとないデータだな、と感じることなどです。さらに、χ二乗検定やt検定など、どのような種類の統計解析法を用いたかも重要です。とんちんかんな手法を用いているときにはデータとして成り立ちません。医療系にとどまらず、今後は統計のスペシャリストを各企業や大学が配置しようとしている昨今、薬局でも1人は統計に強い方を置くか、薬局内勉強会で積極的に統計や論文の読み方などを取り入れることをおすすめします。
今回のような番組などは、医療の専門家であればおかしいと思っても、一般の方だと重く受け止められてしまう場合もあります。多くの方が飲んでいる薬に関連した内容であればあるほど、購入者が増加したり、服薬を勝手に中止してしまう人が出てきたりといった、社会現象となっても不思議ではありません。
日々の業務で多忙を極めるため、なかなか難しいでしょうが、問い合わせや相談に来てくれた患者さんには、きちんと説明ができるよう、少しずつ論文を読んだり、統計の勉強をしたりすることを心がけてみてください。