高齢になると増える尿トラブル。超高齢社会の日本において、悩む方が増えています。尿トラブルと聞くと甘く考えがちですが、日常の生活に影響する大きな問題なのです。漢方薬の中にも尿トラブルに向いている薬があるので、みてみましょう。
そもそも排尿の仕組みとは?
尿トラブルを考えるにあたって、まずは排尿について知る必要があります。
まず腎臓に血液が流入した際に、ろ過装置である糸球体を通過します。ろ過された血液中のうち血漿の約20%がろ過されて原尿になります。原尿は尿細管で再吸収されますが、再吸収されなかった1%が尿となり排出されます。
通常であれば、膀胱に150~200mLの尿が溜まると尿意をもよおしますが、個人差があるものの最大300~500mLくらいまでは溜めることができます。成人の1日尿量は1000~1500mLが正常であり、600mLに満たない場合には欠尿となり脱水などが疑われ、2400mL以上であれば多尿とみなされます。
1日の尿回数としては、平均6回前後となり、8回未満であれば正常と言えます。また、通常であれば夜間に排尿のために起きることはないとされていますが、高齢になると1回程度は起きるようになります。加えて、お酒を飲んだ場合にはアルコールが水分吸収を促進するため、尿回数は当然増えます。
色としては、淡黄色~透明が正常であり、濁っている場合には尿路感染症の疑いがあります。また、尿が泡立つ場合には尿蛋白なども疑われます。ただしビタミン剤などを服用した後に色が濃くなることは問題にはなりません。
尿トラブルの種類も様々!
尿トラブルを医学的に表現すると排尿障害と言います。出すことがうまくできない排出障害と、溜めることがうまくできない蓄尿障害、両方ともうまくできない蓄尿・排出障害に分類されます。典型的な3大症状として排尿困難、尿失禁、頻尿がありますが、このうち、頻尿に関してはどの排尿障害でも起こりうる症状になります。
排尿障害の原因は?
漢方医学では、尿トラブルが起こる原因を「腎」の弱りである「腎虚」と考えます。この場合の腎は腎臓とは必ずしも一致せず、腎臓機能に加えてホルモン調節機能や生殖機能なども広く含んだ概念になります。
腎虚になると、トイレが近い、夜に何度もトイレに起きるなどの症状が出現します。高齢になると腎虚になりやすくなります。腎虚には2種類あり、冷えるタイプの(1)腎陽虚と、熱感があるタイプの(2)腎陰虚に分けられます。(1)腎陽虚の場合には尿が透明で大量になり、四肢の冷え、残尿感、夜間尿などが見られる一方、(2)腎陰虚では尿が着色していて少量という傾向があり、乾燥感やほてりなどが見られます。
それぞれに適した漢方薬は?
漢方薬は個人の体質とその時の状態の両方を綿密に把握して処方されるものですが、前述した腎の状態によってある程度選ぶことは可能です。
まずは腎機能を高め、若々しい体になるようにサポートする役割がある六味地黄丸(ロクミジオウガン)からスタートすると良いかと思います。
腎陽虚で四肢が冷えやすい、かつ、夜間頻尿や残尿感があるなどの場合には八味地黄丸(ハチミジオウガン)に切り替え、むくみがひどく腰痛もあるなどの場合には牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)に切り替えると良いです。
一方、腎陰虚で目が疲れやすい、かすむ、乾燥しやすい、異物感があるなどに加えて、ほてりやのぼせがあるなどの場合には杞菊地黄丸(コギクジオウガン)が適しています。
更に具体的な疾患がある場合にも漢方薬が使える場合があります。例えば、膀胱炎がある場合に猪苓湯(チョレイトウ)、尿路の難治性炎症が見られる場合には五苓散(ゴレイサン)、尿路結石が見られる時には芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)といった漢方薬が適しています。
ちなみに、前述したように腎は生殖機能にも関係するため、腎虚になると尿トラブルだけでなく、不妊につながることもあります。尿トラブルに使われる漢方薬はそのまま不妊にも使われることが多いというのも納得できるものと思います。
もちろん他にも排尿障害の仕組みは奥が深いです。ぜひご自身でも勉強してみてください。
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