すぐに重篤な状態に陥ることはないものの、慢性化すると意外と厄介な便秘。西洋薬だと強すぎたり、くせになったりなどの悩みを抱えている方も多いと思います。便秘に悩む患者さんにおすすめできる漢方薬をご紹介します。
便秘ってどういうもの?
食生活の欧米化などもあり、現代人は以前よりも穀物をあまりとらないようになったと言われています。また、過剰な炭水化物制限ダイエットをされている方も増えていて、これらにより便秘に悩む方も以前よりも増えているのではないでしょうか。普通に食事をしていれば、消化した後の不要物を排出しようと自然と便通が起こるものですが、3日以上排便がない状態、もしくは排便があっても不快感が残る場合を便秘といいます。便秘の時に起こる症状としては、便通の不調にとどまらず、腹痛や食欲不振に加え、痔、倦怠感、肌荒れ、頭痛、肩こりなど多岐に渡り、決して侮れないものになります。
便秘の種類は (1)弛緩性、(2)痙攣性、(3)直腸性の3つになります。(1)弛緩性は、虚弱体質の方や、お年寄りの方の体力低下の際に大腸の緊張が緩んで煽動運動が弱まることが原因となり、便が硬くて太く、ガスでお腹が張る、手足の冷えなどの症状が見られます。(2)痙攣性は、ストレスなどにより逆に煽動運動が強すぎて痙攣することが原因で、便秘や下痢を繰り返したり、兎糞のようなコロコロした便が出たり、などの症状が見られます。(3)直腸性は、直腸の感覚が鈍って便意が起こらない、また、あまり排便の習慣がないことや、浣腸の乱用などが原因となり、便が固まって切れ痔になりやすいなどの症状が見られます。
予防法も異なり、(1)弛緩性では適度な運動や食物繊維を多く取ること、(2)痙攣性では規則正しい生活やストレッチを取り入れストレスを軽減すること、(3)直腸性では排便の習慣を身につけ、発酵食品を取り、運動をすることなどになります。ちなみに、便秘は女性に多いことがわかっています。この原因としては、女性は出産をするため男性よりも骨盤が広いため大腸が骨盤内に落ち込みやすく、落ち込むことで腸の曲がりが強くなり便が通過しづらくなること、男性に比べて腹筋や横隔膜の筋力が弱いことなどだと言われています。
漢方医学的観点から考えると?
西洋医学では、便秘の時には下剤を使う、など症状のある時にだけ薬を使うことがほとんどですが、漢方医学では、体質改善をしながら、便通状態を正常に整えていくという考えになります。漢方医学的には、便秘は「水」の不足、ストレス・緊張による「気」の異常、「血」の異常(瘀血)などによって起こるとされています。
一口に便秘と言っても、人によって原因や症状もそれぞれなので、正確な診断が必要になってきます。そのために、漢方医学の診察では、胃腸の状態や日常生活についてなど、一見便秘とは関係ないようなことまで幅広く問診することで各自に合った漢方薬を選べるようにします。ただ、これはかなりの熟練の技術が必要となりますので、今回のコラムでは目安となる簡易な選び方を紹介していきます。
便秘の際に使われる漢方薬の使い分けとは?
症状や体質別に適した漢方薬を以下にご紹介します。
- 大黄甘草湯(ダイオウカンゾウトウ):便秘で一番使われる漢方薬。便秘以外に特に問題がない人の第一選択になります。体力にかかわらず比較的広めに使えます。
- 桂枝加芍薬大黄湯(ケイシカシャクヤクダイオウトウ):体力があまりないという人におすすめです。
- 麻子仁丸(マシニンガン)や潤腸湯(ジュンチョウトウ):便が硬くてコロコロする、また、おしっこの量が多いなどの場合に適しています。
- 桃核承気湯(トウカクジョウキトウ):不安やイライラを感じている便秘で、のぼせがある時に向いています。ただし、体力がある人向けになります。
- 柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ):さらにイライラや精神不安が強い方に適しています。
- 大柴胡湯(ダイサイコトウ):体力があって、脇腹からみぞおちにかけて苦しい人におすすめです。
- 乙字湯(オツジトウ):便が硬すぎて痔になったという方に適しています。
他にも、便意はあるもののトイレに行ってもでない、残便感がひどい、便秘や下痢を繰り返す、また、過敏性症候群などの場合には桂枝加芍薬湯(ケイシカシャクヤクトウ)が、貧血やダイエット中に便秘気味になってしまう女性の方には当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)が、暴飲暴食をしがちでぽっこりお腹の方で便通を良くしてダイエットにつなげたい方には防風通聖散(ボウフウツウショウサン)がおすすめなど、様々な選択肢があります。
今回ご紹介したのはほんの目安ですので、ぜひご自身でも勉強してみてください。
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