昔はおまじないなどといわれた漢方薬ですが、保険適用の種類も豊富になってきている昨今において、科学的エビデンスに基づいて漢方薬を処方する医師も増えてきました。併せて、OTC医薬品として購入できる種類も以前より多くなり、薬剤師の皆さんの中にも漢方薬を学ぼうという方が増えてきているように感じます。
漢方薬自体の詳細はこれまでもいくつかのコラムで紹介してきているのでそちらに譲るとして、今回は意外と知らない違う漢方薬同士の飲み合わせや、漢方薬と西洋薬との飲み合わせについて学んでみましょう。
そもそも漢方薬の生薬の組み合わせの理論とは??
ご存知のように、漢方薬は生薬を2つ以上組み合わせたものがほとんどで、単独で使用することは少ないです。生薬に関する書物は本草書と呼ばれていますが、漢方医学の基になっている中医学において最古の本草書である「神農本草経」では、生薬の相互作用に関して、「配伍七情」という7つの関係が規定されています。この理論がまさに漢方薬の組み合わせの際の基本となっている関係です。
それぞれを簡単にまとめると、下記の通りです。
(1)単行:単独で用いる
(2)相須:同じ効能のものを一緒に使うことで増強する
(3)相使:一方をメインにし、他方がそれを補うものとして使うことで他薬が主薬の効果を増強する
(4)相畏:主薬の毒性反応・副作用を他薬よって削除・軽減させる
(5)相殺:(4)相畏の裏返しの関係で、他薬の不良作用を主薬が削除・軽減する
(6)相反:2種類以上の生薬を組み合わせることで副作用が生じる
(7)相悪:2種類以上の生薬を組み合わせることで作用が低減・無効になる
各漢方薬の生薬の構成は、これらの関係を巧みに利用することで総合的に薬効を発揮します。余談ですが、明確な定義がないと思われがちな薬膳も本来はこの考え方をベースとして食材を組み合わせます。
最近増えている漢方薬の併用時に特に注意?!
最近では、漢方薬を併用する医師も多くなってきたので、この組み合わせを意識して、疑義照会をすることも必要です。現に、漢方薬の添付文書にも、「他の漢方製剤等と併用する場合には、含有生薬の重複に注意すること」と明記されています。ただいきなり7つの関係を意識するのは難しいでしょうから、まずは実務上で問題になりやすい、生薬の重複に着目して意識すると良いと思います。なぜ重複が問題になりやすいかというと、生薬が重複する漢方薬はだいたい同じ症状の際に一緒に処方されることが多いからです。
例えば、風邪の際にとりあえず葛根湯と、鼻水がひどいからと小青竜湯が処方されているとします。この2つでは、ケイヒ、カンゾウ、マオウ、シャクヤクが重複しています。もちろん個人差があるので一概には言えませんが、各生薬の副作用が出ることがあるのでしっかりとした経過観察の必要性を患者さんに伝えるとよいでしょう。
また、もし胃腸が弱いなどの症状が患者さんにあるようであれば、必要に応じて処方医に疑義照会をすると良いかと思います。特にカンゾウに関しては多くの漢方薬に含まれており、重複しやすいため注意が必要です。カンゾウの重複時には、服用期間中にひどいむくみがないかなど、きちんと患者さんに経過観察してもらうと良いでしょう。
漢方薬と西洋薬との併用にも注意が?!
最も注意すべきは小柴胡湯とインターフェロン製剤との併用による間質性肺炎の可能性ですが、それ以外にも併用注意の組み合わせは存在します。安中散とニューキノロン系抗菌剤との併用では、安中散に含まれるボレイ中の成分であるカルシウムなどのミネラルが抗菌剤の吸収を阻害してしまいます。
また、反対の効果をもつ西洋薬と漢方薬と併用すると効果を打ち消してしまうことにも注意が必要です。例えば、熱を下げる解熱鎮痛消炎剤と体温を上げる漢方薬と併用すると、その効果を打ち消し合ってしまいます。この場合には、十分な間隔を空けることを意識し、漢方薬を食前に飲んでから、食後に解熱鎮痛消炎剤を飲むなど、きちんと指導をすると良いです。
漢方薬に関しては、副作用が少ないと思いがちで、相互作用には目がいきにくいです。ぜひ注意してみてください。