未だに発症メカニズムが不明の難病の一つに、ALS(筋萎縮性側索硬化症)があります。
2014年夏、この病気の支援のために氷水をかぶるという「アイス・バケツ・チャレンジ」が世界中で行われ、各国の著名人も巻き込んで話題となりました。
賛否両論あった運動ではありましたが、そのインパクトばかりが注目されて、ALSそれ自体の理解が浸透したとは言い難いような印象です。
では、この難病については現在、どこまで研究が進んで、どこまで解明されているのでしょうか。
医療人である薬剤師ならば当然知っていなければいけない最先端の知識を紹介します。
そもそもALSとはどんな病気?
ALSとは、脳や末梢神経からの命令を筋肉へと伝える運動神経細胞である「運動ニューロン」が異常をきたすことで、重篤な筋肉の萎縮や筋力低下が起こる神経変性疾患です。
進行が早く、人工呼吸器装着による延命をほどこさないと、発症から5年以内に呼吸筋麻痺で死に至ります。
日本では1974年に特定疾患に認定された指定難病です。好発年齢は40~60代で、男性が女性の約2倍を占めます。
アメリカメジャーリーグのスター選手だったルー・ゲーリッグがこの病気を患っていたので、別名として「ルー・ゲーリッグ病」とも呼ばれています。
罹患している他の著名人としては、未だに世間をにぎわせている医療法人徳州会理事長で医師の徳田虎雄氏、英国の著名な理論物理学者として有名なスティーブン・ホーキング氏などがいます。
ALSを知らなくても、このお二方が車いすに乗り、人工呼吸器をつけている様子をテレビで見て知っているという方は多いと思います。
実はこのお二方はまさしくこの病気の特徴を表しています。
ALSの場合は、脳ではなく、運動神経を骨格筋へと送っている神経細胞の代表である脊髄の前角細胞がやられてしまうのが特徴です。
そのため、寝たきりになってしまうことが多いですが、意識や五感は保ったままですので、知能の働きには変化がありません。
ですので、お二方を見てみても、ALSを患い人工呼吸をつけながらもしっかりと自分の考えを持ち活躍されている訳です。
原因遺伝子の研究はかなり進んでいる!?
ALSの患者数は現在およそ9000人です。
毎年増加しているので今後はもっと増えることが予想されます。
約9割が遺伝性ではない弧発性で、残り1割程度は遺伝性ALSです。
一見すると、割合的には少ないですが、数で見ると遺伝性ALSの患者さんは900人程度と結構多くいるので、これらの患者さんを調べることで、原因遺伝子探索が結構進んでいます。
原因遺伝子としては、現在約10個が同定されています。
例えば、遺伝性ALSのおよそ20%を占めるとされるALS1では21番染色体上の遺伝子SOD1(スーパーオキシドディスムターゼ1遺伝子;活性酸素除去に関わるタンパク質SOD1の設計図となる遺伝子)に突然変異があるということがわかっています。
参考ですが、ALSよりもたくさんの活発な研究が世界中でおこなわれているパーキンソン病の原因遺伝子探索でも同じくらいの数が同定されているので、割と早く同定が進んでいると思われます。
ただ、いまのところ、これらの原因遺伝子同士がどのように関連して、またどのようにこれらがALSに関係するかという詳細なメカニズムはわかっていません。
加えて、がんやエイズ等と比べALSの研究はこれを扱う研究者が少ないので相対的に遅れています。
残念ながら、治療法確立はまだまだ先の話です。
こういった現状を是非知っておいてください。