未曾有の危機に見舞われた東日本大震災からあっという間に4年という月日が経ちました。
先日の3月11日に色々なメディアで特集が組まれたものの、次第に人々の記憶も薄れつつあります。

しかしながら、まだまだ復興にはほど遠く、被災地では見えない放射線に対する不安や慣れない土地への移住によるストレスが、被災者の方々の健康を蝕み始めてきています。
筆者は現在、この問題への対策を行う環境省のプロジェクトに関わっています。
薬剤師として具体的に何ができるのかをさぐるべく、今回は被災地支援活動ルポ第2弾をお届けします。

放射線影響を薬剤師の視点から見ると!?

「放射線影響」と聞くと、医師や看護師の領域ではないか、とまずは考えることと思います。
確かに生物学的観点から見るとそうでしょう。
プロジェクトにはこれまで薬剤師は参加しておらず、人体影響や放射線の線量の数値についていくら説明しても真には理解してもらえなかったと聞いていました。

筆者が参加するようになって、ある重要な視点が抜けていること、またそれが被災者の理解が進まない理由であることに気がつきました。
これまでのメンバーであった医師、看護師、検査技師、医学物理士、臨床心理士、心理学者、社会学者にはなくて薬剤師にはあるもの、が大変重要だったのです。
それは、「放射線を物質の面からとらえられる」ということです。

医療系職種の中で最も化学に精通しているのは薬剤師です。
放射線の人体影響とは、見方を変えると、「化学物質の一つである放射線が体にあたった時の影響」だと言えます。
つまり、「放射線それ自体がどういった特性をもった物質か」という理解が被災者の中で抜けていたのです。

これまでは、放射線が体にあたった後の放射線被ばくの数値や単位、また結果としての健康影響をいきなり説明してしまっていたため、漠然とした不安を被災者が感じていたのでした。
筆者は、放射線自体にいくつも種類があり、どの種類の放射線に被ばくするかによって健康影響も変わってくるなど、放射線自体の性質から影響を考えるという視点で説明することを行いました。
結果として、放射線に対する理解度が格段に良くなったのです。

大学受験時に化学を選択しないで薬学部に入学してしまう学生が少なからずいるご時世ですが、薬剤師になるなら化学には常に精通しておきたいものです。

薬に頼っている被災者は少なくない現状!?

前述した通り、日々何らかのストレスを感じやすい被災者の中には、体調を崩しやすい人が多くいます。
元々日本は医療・薬大国でもあり、多種類の薬を飲んでいる方も少なくないです。
精神不安を抑えたり、痛みを取ったりする分野を緩和ケアといいますが、特に緩和ケアで用いられる薬は精神安定剤など比較的強いものが多いです。

当然、副作用も問題になりやすいです。
また、比較的高齢の被災者には漢方薬が好まれていますが、間違った使い方をしている方や、副作用や他の医薬品との相互作用がないと思い込んでいる方もいます。

筆者は医師メンバーと相談して、余計な薬を排除し、適切な薬をおすすめしたところ、数日で症状が収まったそうです。
ここでポイントなのは、適切な薬自体が効いたこともあるでしょうが、まずはしっかりと話を聞いて寄り添い、その上できちんと薬を選択したことを目の前で伝えたことにより、被災者自身が安心感を感じたことも症状緩和につながっているということです。

今の日本は精神的に病んでいる方が多く、またがん患者が増えていく中で痛みを取るということが非常に重要です。
薬学部では緩和ケアをほとんど系統的には習いません。
これからの薬剤師は、この緩和ケアも積極的に学ぶべきだと思います。
加えて、これまで以上に患者さんの訴えに耳を傾けることが大事という当たり前だけど忘れがちなことを、この被災地で再度実感できました。