米国で212.5万ドル(日本円で約2億3000万円)という超高額な薬価がついたことで話題となったゾルゲンスマ®(一般名:オナセムノゲン アベパルボベク)。難病の脊髄性筋萎縮症(SMA)に対する画期的な治療薬として期待されています。日本でも、2020年3月19日に製造販売承認され、5月には保険収載の予定です。注射剤としての投与になることと、非常に高価な薬剤であるため、身近で目にする機会は少ないかもしれませんが、薬剤師として最新の薬剤情報をキャッチアップするため、どんな薬かを一緒に見ていきましょう。
ゾルゲンスマ®はどういう薬?
ゾルゲンスマ®(一般名:オナセムノゲン アベパルボベク、以下®を省略)は脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療薬になり、具体的な臨床所見が見られなくても遺伝子検査により将来的な発症が予想される患者にも適応されます。ただし、抗AAV9抗体が陰性の患者に限られます(理由は後述)。
これまでの薬と違う、新しい分類の再生医療等製品に該当する遺伝子治療薬になります。これまでもSMAの治療薬として、2017年に承認されたスピンラザ髄注®(一般名:ヌシネルセン)がありましたが、髄注という特殊な投与経路を取ることと4~6ヶ月毎の投与が一生涯必要という困難さがありました。それに比べ、ゾルゲンスマはたった1回の静脈内投与で治療完了するという画期的な薬になります。
製品名の名前の由来は、単回投与(solo)からzol、遺伝子(gene)治療からgen、脊髄性筋萎縮症(SMA)からsmaを取ってそれぞれ組み合わせて、zolgensma(ゾルゲンスマ)となりました。名前を見れば、まさにこの薬の特徴がわかるようになっています。
SMAとはどういった病気?
SMA(英語名:spinal muscular atrophy)とは、遺伝的要因により脊髄を含む運動神経が変性・脱落してしまい、筋収縮刺激の神経伝達がうまく出来なくなった結果、筋力低下、さらには筋無力を引き起こし、呼吸困難などにつながってしまう難病指定の神経変性疾患です。
遺伝的要因とは、5番染色体上に存在する運動神経細胞生存(SMN)遺伝子の変異です。正常なSMN1遺伝子からは正しいSMN1タンパク質が出来ますが、SMN1遺伝子が変異してしまう(SMN2遺伝子)と異常なSMNタンパク質が作られてしまいます。これによって、運動神経細胞に影響してしまい、SMAが発症すると考えられます。
SMAには、I型:重症型・急性乳児型、II型:中間型・慢性乳児型、III型:軽症型・慢性型、IV型:成人型の4つのタイプがあります(出生前発症型で重篤なものを0型に分類する場合もあります)。この中で特にI型は生後6ヵ月までに発症し、すぐに運動発達が止まります。発症後平均6~9ヵ月で死に至り、18ヵ月までの死亡率は約95%と言われています。
ゾルゲンスマの作用機序
ゾルゲンスマに含まれているのは、「二本鎖DNA構造の正常なSMN1遺伝子を内包した自己相補型アデノ随伴ウイルス9型(ssAAV9)」というアデノウイルスの殻(カプシド)です。簡単に言うと、ウイルス性のカプセルの中に遺伝子を入れているイメージになります。
静脈内に入ったこのカプセルは血液脳関門を通過して脊髄に到達します。脊髄内でSMNタンパク質産生細胞に入ると内部でカプセルが壊れて、正常なSMN1遺伝子のみが細胞核内に放出され、環状DNAとして安定的に留まるようになります。これは元々体内にあったDNAと同様に扱われ、そこに含まれるSMN1遺伝子は設計図と認識され、そこから正常なSMN1タンパク質が作られていきます。
正常なSMN1タンパク質が出来れば、神経の働きは正常に保たれるため、SMAの症状が治るというわけです。一度投与してしまえばずっと正常なSMN1タンパク質が作られ続けるため、永続して効果を発揮するのです。
薬としての注意点は?
もちろん薬である以上は完璧ではなく、注意点もいくつかあります。
まずはアデノウイルスを利用するという点です。アデノウイルスは風邪などを引き起こす、一般的に存在するウイルスですが、このウイルスに対して敏感に反応してしまう方(例えばアレルギーを持った方など)ではウイルス自体の影響が出てしまうこともあり得ます。
加えて、アデノウイルスにヒトのSMN1遺伝子を導入するという遺伝子組み換えを施しているため、特に発売後数年間は予想できない影響にも注意する必要があります。ゾルゲンスマ自体はこれまでの常識を覆す大変素晴らしい薬ですが、遺伝子変異が起こった新型ウイルスの影響の怖さは、昨今の新型コロナウイルスで体感しているように未知数です。薬のプロである薬剤師の皆さんには、特に投与後の患者の状態変化を注視して欲しいと思います。
また、投与対象は抗AAV9抗体が陰性のI型の方に限定されます。陽性の方に投与すると、AAV9を持つウイルスの殻自体と抗原抗体反応を起こしてしまい、薬自体が不活性化してしまい効果がなくなってしまうからです。I型に限定されているということは、つまり2歳未満にしか使えませんのでその点も注意が必要です。
まだ登場したばかりの新しい薬なので今後多いに期待ができます。ぜひ皆さんも動向に注目してください。
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