薬剤師として是非知って欲しい、薬のちょっといい話を紹介します。
今回は、元日本薬剤師会会長の佐谷圭一先生の著書「若き薬剤師への道標」に書かれている、阪神大震災の被災地の現場で体験された逸話を紹介します。
この事例を元に、OTC薬の可能性を考えたいと思います。

調剤ができない!そんな時の救世主OTC薬

1995年1月17日、阪神・淡路大震災が発生しました。
発生から一週間ほどで、緊急避難所になっていた六甲小学校には、ボランティアスタッフである医師、看護師、薬剤師が揃った救護施設ができました。
全国から集められた医薬品も次第に配送されて来る中、救護施設には多くの医療用医薬品も運びこまれ、診療体制が整っていきました。

しかし、医薬品がひと通りあるため医師が処方箋を大量に書くものの、薬剤師が調剤するための肝心な調剤器具がまだ揃わないという状況でした。
当時避難所では風邪が流行しており、特に子供達において深刻でした。
子供への投薬は特に慎重さを要求されるために、調剤が不可能という状態が続いていました。

ここで薬剤師が提案をしたのは、OTC薬の活用でした。
OTC薬のかぜ薬には、熱を下げる・咳を止める・鼻水を止めるなどの成分がまとめて入っているので、大変使い勝手がいいです。
また、OTC薬のかぜシロップの目盛り付きカップは、子供への服用量を確認するのに大変有用で、母親でも簡単にできました。

ハンドクリームにまさかのあの薬!

また、皮膚が乾燥しがちな真冬の中での避難生活で、ひびやあかぎれの症状に苦しむ母親や子供たちが増えていきました。
避難所に届いた医薬品の中に、ハンドクリームなどスキンケアのものは含まれていませんでした。災害時に必要なものとして、当時は想定されていなかったからでしょう。

この解決法として浣腸を使う事を薬剤師が提案しました。
当時水洗トイレが使えなかったので、浣腸が山のように使われず残っていました。
浣腸の成分の半分はハンドクームにも使われるグリセリンですので、これをスキンケアに使えばいいのではと考えたからです。

このアイディアには医師、看護師が驚いたといいます。
その後他の避難所にも伝えられ、山積みとなっていた浣腸がみるみる減っていったそうです。

これらの事例から学ぶべきこと

前述の事例はどれも、薬剤師であれば言われてみれば当然のことだと思います。
きちんとしたOTCの勉強をしているからこそ、緊急時には提案できることなのです。
浣腸の事例は特に、余った薬をうまく利用するというエコの観点からもすばらしいと思います。

また、今回の事例からわかるように、患者さんの病態から薬へと落とし込む医師、看護師とは違い、薬の目線から患者さんを見られるのは薬剤師だけです。
薬剤師としての基本ではありますが、日頃から薬の成分の種類や意味をしっかりと理解しておくことが、薬剤師の独自性の発揮につながるものと思います。